鼈甲蜻蛉

生物名を記載するときに、漢字表記にするかカタカナ表記にするのかを迷う。

日本では、明治維新以前に本草学による貢献があり、多くの生物に対して漢字表記での命名がなされている。しかし、現代の生物学に於いては、生物の名称をカタカナ表記することが標準とされ、それ以前から存在した漢語の名詞がカタカナ表記されることにより、却って解りづらくなっている。

さて。昨年の11月に、私は老父の遺産である古いカメラを下取りに出して、新しいカメラを購入した。そのカメラで撮影したかった対象物のひとつが昆虫である。新しいカメラは自然観察専用に購入したものであり、これまで植物や動物以外のものを撮影したことがない。

特にベッコウトンボ(鼈甲蜻蛉)は、絶滅危惧IA類(CR)に指定されており、以前から撮影の対象としたかったものである。ベッコウトンボの生息する桶ヶ谷沼では、現在、市民団体による人工繁殖が行われており、それでなんとか命脈を保っているような状況にある。

現在の桶ヶ谷沼本体は、人為的に井戸から組み上げた地下水を与えられつつ、その排出口は水門で締め切られており、土色に混濁した淡水が溜められているような状況にある。沼本体からのベッコウトンボの発生はほぼ望めない状況にあり、微かに、沼の奥の生簀と「甑塚の水辺(水を張った容器を並べたもの)」での人工繁殖の試みにより、ベッコウトンボの生活環を維持している。

桶ヶ谷沼に人為的に地下水を与えているのは湧水量の減少への対策である。昭和時代に於ける東名高速道路の開通工事により主要な水脈が断ち切られ、なお、磐田原台地北部の工業地帯に於いて、工業用水として地下水の汲み上げられていることなどが、湧水量が減少した原因ではないかと私は考えている。排出口にあたる水門の構造は、溢水を下流となる桶ヶ谷川へ流すものとなっており、土砂の流れに乏しいものである。自然環境保全地域には含まれていない桶ヶ谷川では、過去に河川工事が施されている。

現在、浜松市の南部地域にベッコウトンボを復活させる活動も行われており、私としては、そのプロジェクトの成功を願っている。むろん、桶ヶ谷沼の自然環境を昔日の如く復元させることができるのであるなら、それは望ましいことではあるが。

追記 : 写真は4月10日日曜日に撮影したものです。