Irohauta

(2013.09.15 初稿。2017.07.08 改稿。)

 

 

「いろは歌」のまとめ

2012.09.04 から、#IRH48 中町とおとさんとの御縁により、ツイッターで「いろは歌」を詠みはじめました。
#IRH48 竹本健治氏による「短歌研究」誌(2013年11月号)への作品「いろは歌 自選 十五首」 及び エッセイ「ヰタ・イロハアリス あるいは我いかにしていろは作りの道に踏みこみしか」掲載にちなみ、拙作をまとめて公開いたします。お読みいただければ幸いです。

 

歴史的仮名遣いによる作品 174 首

・「いろは歌」は、七五七五七五七五の今様という形式で詠みます。また、同じ音数である「俳句+短歌」「歳旦三物」で詠むこともあります。「今日の季語」#kigo は、林義雄先生がツイッターで毎日午前五時に提供してくださる、その日毎に相応しい季語です。私は「今日の季語」により「いろは歌」を詠むことを基本としています。

001
あそびせんとや生まれけむ 萌えて咲きゐる花わらふ 野に立ちぬべし 夢 音色 好く御声より顔を見つ
あそひせんとや うまれけむ もえてさきゐる はなわらふ のにたちぬへし ゆめねいろ すくおこゑより かほをみつ

002
あそびせんとや生まれけむ 白妙のきみ思ふゆゑ 夜を吠えさわぐ仔犬ゐて 熱は力にするなめり
あそひせんとや うまれけむ しろたへのきみ おもふゆゑ よをほえさわく こいぬゐて ねつはちからに するなめり

003
あそびせんとや生まれけむ 月の御話もちかへり 声音さえゐて目をぬらす 蛍袋に好い絵みゆ
あそひせんとや うまれけむ つきのおはなし もちかへり こわねさえゐて めをぬらす ほたるふくろに よいゑみゆ

004
あそびせんとや生まれけむ 罠に落ちゆく芝居者 狐ほろぶよ寺さだめ 詠ずる声をかへりみぬ
あそひせんとや うまれけむ わなにおちゆく しばゐもの きつねほろふよ てらさため えいするこゑを かへりみぬ

005
あそびせんとや生まれけむ 狸ねいりて田舎道 嗚咽おくする女の童 ゆゑよし衣さへ匂ふ
あそひせんとや うまれけむ たぬきねいりて ゐなかみち をえつおくする めのわらは ゆゑよしころも さへにほふ

006
あそびせんとや生まれけむ 千代に地震きぬ え苦しゑ わらべ思ほゆ 蝶を愛づ 木の葉墨色かさねたり
あそひせんとや うまれけむ ちよになゐきぬ えくるしゑ わらへおもほゆ てふをめつ このはすみいろ かさねたり

・以上「今様 あそひせん 六首」。「梁塵秘抄」の本歌では「あそびをせんとや生まれけむ(八・五)」なのですが、塚本邦雄に「鐡鉢に百の櫻桃ちらばれりあそびせむとや人うまれけむ」という一首があり、七音をつかわせていただきました。

007
とほきゆゑ衿よせて着く鮭颪 一面に舫ひぬる船こそまゐれ海の神すむ青海原へ
とほきゆゑ えりよせてつく さけおろし いちめんに もやひぬるふね こそまゐれ わたのかみすむ あをうなはらへ
・俳句+短歌。季語は「鮭颪」(仲秋・天象)

008
なよびかにこゑぞ移ろふ草紅葉 ぬばたまの夜陰え惚れじ合歓へ座せ音すら消ゆる藍を愛でけり
なよひかに こゑそうつろふ くさもみち ぬはたまの やいんえほれし ねむへわせ おとすらきゆる あゐをめてけり
・俳句+短歌。季語は「草紅葉」(晩秋・植物)

009
末わかくあいな頼みに今年酒 揺らきぬる宴も仰せを敬ひて蓮ろ添へむ常よ酔ふめり
うれわかく あいなたのみに ことしさけ ゆらきぬる えんもおほせを ゐやまひて はちすろそへむ つねよゑふめり
・俳句+短歌。季語は「今年酒」(晩秋・生活)。「ろ」は上代東国方言の接尾語で、親しみの気持ちをこめたり、語調をととのえたりするのに用います。(全訳古語辞典 第三版 旺文社)

010
ゆふされば御身ゑぐりて鵙の贄 あえかなる骨むごたらし土気色 僧きませぬと悲話をやめゐよ
ゆふされは おんみゑくりて もすのにへ あえかなる ほねむこたらし つちけいろ そうきませぬと ひわをやめゐよ
・俳句+短歌。季語は「鵙の贄」(三秋・動物)

011
礼あえか童さまよふ梅擬 清楚みつ白妙ぬれて胸ゆする笑窪の女 恋に落ちけり
ゐやあえか わらはさまよふ うめもとき せいそみつ しろたへぬれて むねゆする ゑくほのをんな こひにおちけり
・俳句+短歌。季語は「梅擬」(晩秋・植物)

012
え知られぬ千代を遊べや相撲草 隈おりて蟋蟀に笑む田舎だつ 今日も夢見る永久の少年
えしられぬ ちよをあそへや すまひくさ わいおりて こほろきにゑむ ゐなかたつ けふもゆめみる とはのせうねん
・俳句+短歌。季語は「相撲草」(三秋・植物)。「隈(わい)」の字義は「くま。水が岸に曲がり入っている所。山の入りくんだすみ」です。(新漢語林 大修館書店)

013
地へ降りよろけ笑まんとす 王や細目に妹みるを えせぬ傍ら猫のゐて なづむ夕暮れ秋寂びし
ちへおりよろけ ゑまんとす わうやほそめに いもみるを えせぬかたはら ねこのゐて なつむゆふくれ あきさひし
・季語は「秋寂ぶ」(晩秋・時候)

014
八百万の地さすらひぬ 眠気を整へ木綿えて 御声うるはし伊勢参り ふたみにわかれ行く秋ぞ
やほよろつのち さすらひぬ ねむけをとなへ もめんえて おこゑうるはし いせまゐり ふたみにわかれ ゆくあきそ
・季語は「行く秋」(晩秋・時候)。本歌は「蛤のふたみにわかれ行く秋ぞ」(芭蕉)です。

015
忘れかねつる海と山 地誌に思ほゆ鮮らけき 酔ふぞ温めむ寄鍋の 宴を憩ひて囲炉裏端
わすれかねつる うみとやま ちしにおもほゆ あさらけき ゑふそぬくめむ よせなへの えんをいこひてゐろりはた
・季語は「寄鍋」(三冬・生活)

016
明らむ天は重き色 梢そめよと松を焚く え消せぬ火へや潮騒に 破れ散りうねる冬の波
あからむてんは おもきいろ こすゑそめよと まつをたく えけせぬひへや しほさゐに われちりうねる ふゆのなみ
・季語は「冬の波」(三冬・地理)

017
ひらり初雪おちそめぬ 公園へさや寝ぼけにか 妹の編みたる手袋よ 汝をえ忘れじ円居せむ
ひらりはつゆき おちそめぬ こうゑんへさや ねほけにか いものあみたる てふくろよ なをえわすれし まとゐせむ
・季語は「手袋」(三冬・生活)

018
鷲すむ森よ険ねめぬ 法螺ゑまひゐる瀬な消えそ 朝は上見つ斧入れて 香におどろくや冬木立
わしすむもりよ けんねめぬ ほらゑまひゐる せなきえそ あさはうへみつ をのいれて かにおとろくや ふゆこたち
・季語は「冬木立」(三冬・植物)。本歌は「斧入れて香におどろくや冬木立」(蕪村)です。

019
若草を捩づる兄ろゐて歩むすゑ 世のうきめ見えぬ山ぢへいらんには思ふ人こそほだしなりけれ(古今 955)
わかくさを ねつるせろゐて あゆむすゑ よのうきめ みえぬやまちへ いらんには おもふひとこそ ほたしなりけれ
・俳句+古歌。俳句の季語は「若草」(晩春・植物)。短歌は、古今和歌集 955 「おなじもじなき歌」(もののべのよしな)。

020
艪をひけと海人ゐ笑む江や千の船 沖つ波うち寄する藻にいほりして行方さだめぬわれからぞこは(古今 1130 )
ろをひけと あまゐゑむえや せんのふね おきつなみ うちよするもに いほりして ゆくへさためぬ われからそこは
・俳句+古歌。俳句は無季(雑の句)。短歌は、古今和歌集 1130(岩波文庫版には所載なし。角川文庫版、雑18 )

021
うつせみにゐ醒めぬ和音ほろ彼方へ 逢ふことよ今はかぎりの旅なれや行くすゑしらで胸ぞもえける
うつせみにゐ さめぬわおん ほろをちへ あふことよ いまはかきりの たひなれや ゆくすゑしらて むねそもえける
・俳句+古歌。俳句は無季(雑の句)。短歌は、新勅撰和歌集 1373(穂久邇文庫蔵「新勅撰和歌集」(日本古典文学影印叢刊13 昭和55年5月 日本古典文学会)

022
初富士や雲居おほむね色を得ぬ 若菜みせんと寄りにける声 薄氷の朝まち来たれ夢そへて
はつふしや くもゐおほむね いろをえぬ わかなみせんと よりにけるこゑ うすらひの あさまちきたれ ゆめそへて
・歳旦三物。季語は、初富士(新年・地理)、若菜(新年・植物)、薄氷(初春・植物)
語法:(万葉 3267 )明日香川瀬瀬の玉藻のうちなびき心は妹に寄りにけるかも

023
家居しせれば垂氷きえ 楢の梢に冬芽まつ 雨露や細道あけぬ夜を ねむりてん然も乾く音
いへゐしせれは たるひきえ ならのこすゑに ふゆめまつ うろやほそみち あけぬよを ねむりてんさも かわくおと
・季語は「垂氷」(晩冬・地理)。

024
寒木瓜ゑみて目覚しや 紅によせ空へ増ゆ うすき命と撓む枝を 思ひぬるころ初音あり
かんほけゑみて めさましや くれなゐによせ そらへふゆ うすきいのちと たわむえを おもひぬるころ はつねあり
・季語は「寒木瓜」(晩冬・植物)。

025
読むも覚えぬ髫髪児を 笑ませ清けき泉わく 地面に垂れね明日かへる 白鳥そろひ冬の果
よむもおほえぬ うなゐこを ゑませさやけき いつみわく ちめんにたれね あすかへる しらとりそろひ ふゆのはて
・季語は「冬の果」(晩冬・時候)。

026
花のロゼツトゆでたまご 暴君それを召しあがり 昼寝に落ちぬ安らけき 平和ふえゐよミモザ咲む
はなのろせつと ゆてたまこ ほうくんそれを めしあかり ひるねにおちぬ やすらけき へいわふえゐよ みもさゑむ
・季語は「ミモザ」(初春・植物)。

027
鳥や寝けむよ園にゐて 霊へ惚れそめ土踏みぬ 檜翌檜 重い枝を 揺らし騒がせ春動く
とりやねけむよ ゑんにゐて たまへほれそめ つちふみぬ ひのきあすなろ おもいえを ゆらしさわかせ はるうこく
・季語は「春動く」(初春・時候)。

028
風ぞ越えぬる道来たれ 髻華 余薫とむ家居にて 姉を思ほゆ女の童 酔ふや白酒 雛祭
かせそこえぬる みちきたれ うすよくんとむ いへゐにて あねをおもほゆ めのわらは ゑふやしろさけ ひなまつり
・季語は「雛祭」(仲春・行事)。「髻華(うす)」は上代語で「草木の枝葉や花を髪や冠にさして飾りとしたもの」です。(全訳古語辞典 第三版 旺文社)

029
月を見あげむ赫映姫 そ待ちゐさせよ永年と 調べ忘れぬ歌声も 朧になりて春の夕
つきをみあけむ かくやひめ そまちゐさせよ えいねんと しらへわすれぬ うたこゑも おほろになりて はるのゆふ
・季語は「春の夕」(三春・時候)。以上四首は、「花鳥風月から始まる、季語いろは歌」です。

030
眠れぬ夜を街にゐて メトロポリスの過去未来 ゆゑ泡へ秘し御巫山戯や 嘘も絶えなき万愚節
ねむれぬよるを まちにゐて めとろほりすの かこみらい ゆゑあわへひし おふさけや うそもたえなき はんくせつ
・季語は「万愚節」(仲春・行事)。

031
忘れえぬ藍けさ散らせ 胸へ及ぶや絵と仮して 迷路に消ゆる本当の 恋を待つ身ぞ花曇
わすれえぬあゐ けさちらせ むねへおよふや ゑとかして めいろにきゆる ほんたうの こひをまつみそ はなくもり
・季語は「花曇」(晩春・天象)。

032
春荒の音 天を裂き 雲居わかつや 嶺へ舞ひ 梢 鳴らしめ 咆え哮り 染む色に冬 打ち寄せぬ
はるあれのおと てんをさき くもゐわかつや みねへまひ こすゑならしめ ほえたけり そむいろにふゆ うちよせぬ
・季語は「春荒」(三春・天象)。

033
堰へ揃ふ絵も楽し 跳ぬる若鮎 水打ちて 胸鰭を錬り越え逃げよ 遠い山奥めざすらん
ゐせきへそろふ ゑもたのし はぬるわかあゆ みつうちて むなひれをねり こえにけよ とほいやまおく めさすらん
・季語は「若鮎」(晩春・動物)。

034
雲居へ揺られ羽わたり 細るすゑ日の落ちむ頃 不意にやえせぬ懸想して 乙女よ甘き夏蜜柑
くもゐへゆられ はねわたり ほそるすゑひの おちむころ ふいにやえせぬ けさうして をとめよあまき なつみかん
・季語は「夏蜜柑」(初夏・植物)。

035
横たふる身の痩せにけり 餓ゑて夢さへ色落ちぬ 薬師そを率つ泡と消え 骨まもられむ彼岸花
よこたふるみの やせにけり うゑてゆめさへ いろおちぬ くすしそをゐつ あわときえ ほねまもられむ ひかんはな
・季語は「彼岸花」(仲秋・植物)。

036
哀れ蚊追ひつ夕闇へ 里にゐてなほ待ち受けん 暗き夜を染め虫の声 和するも絶えぬ音色せり
あはれかおひつ ゆふやみへ さとにゐてなほ まちうけん くらきよをそめ むしのこゑ わするもたえぬ ねいろせり
・季語は「哀れ蚊」(仲秋・動物)。

037
鬱然とゆく森の中 大雨はねてゐる頃に 弱き小さい其を見ぬや すゑへ群れ殖え猿茸
うつせんとゆく もりのなか おほあめはねて ゐるころに よわきちひさい そをみぬや すゑへむれふえ ましらたけ
・季語は「猿茸」(三秋・植物)。

038
雲居のぞみぬ真秀場へ 謁す収むる稲ゆらり 召せよと御声わけあふや 憂ひなき地に天高し
くもゐのそみぬ まほろはへ えつすをさむる いねゆらり めせよとおこゑ わけあふや うれひなきちに てんたかし
・季語は「天高し」(三秋・天象)。

039
刹那に見ゆる鵙ひらり 猪の子まろぶや落葉わけ 霊木たかし米植ゑて 富む宴へぬぞ秋収
せつなにみゆる もすひらり ゐのこまろふや おちはわけ れいほくたかし よねうゑて とむえんへぬそ あきをさめ
・季語は「秋収」(晩秋・生活)。

040
やすらかなるよ新蕎麦の 蒸籠あまねく渡りけむ 海老に汁さへ海おもふ 土地を誉めゐて切れぬ声
やすらかなるよ しんそはの せいろあまねく わたりけむ えひにつゆさへ うみおもふ とちをほめゐて きれぬこゑ
・季語は「新蕎麦」(晩秋・生活)。

041
え応へず為でおとなしき 童を温め熱うれふ 襤褸にゐる妹 治癒さそひ 夜明ゑまむや榠櫨の実
えこたへすせて おとなしき わらはをぬくめ ねつうれふ ほろにゐるいも ちゆさそひ よあけゑまむや かりんのみ
・季語は「榠櫨の実」(晩秋・植物)。

042
小牡鹿なくや秋空へ 栗鼠はねゐて色もえぬ 遠目に詠ひ待ち伏せむ 揺れ湧ける絵よ 木の実落つ
さをしかなくや あきそらへ りすはねゐて いろもえぬ とほめにうたひ まちふせむ ゆれわけるゑよ このみおつ
・季語は「木の実落つ」(晩秋・植物)。四十七文字。

043
池は遮へ波泡散らせ つゆえ触れず思ひゐる 小夜を染めてむ止まぬ声 ほのかに白く浮寝鳥
いけはたへなみ あわちらせ つゆえふれす おもひゐる さよをそめてむ やまぬこゑ ほのかにしろく うきねとり
・季語は「浮寝鳥」(三冬・動物)。四十七文字。

044
やをら絵にゐる猫そろり えせず愛しく寒き夜の 解れぬ夢思ひ侘ぶ 打ち延へ編みて毛糸玉
やをらゑにゐる ねこそろり えせすかなしく さむきよの ほつれぬゆめ おもひわふ うちはへあみて けいとたま
・季語は「毛糸玉」(三冬・生活)。四十七文字。

045
海うねり越え大風や 雨へ融けゐる地を這ひて 出雲の白 冬兆す そゑに皆よれ温まらむ
わたうねりこえ おほかせや あめへとけゐる ちをはひて いつものしろ ふゆきさす そゑにみなよれ ぬくまらむ
・季語は「冬兆す」(初冬・時候)。四十七文字。

046
笛の音さやか思ほゆる クレヨン写す待たしむを にこり笑みゐて稚けなき 童そろひぬ千歳飴
ふえのねさやか おもほゆる くれよんうつす またしむを にこりゑみゐて いはけなき わらへそろひぬ ちとせあめ
・季語は「千歳飴」(初冬・行事)。

047
山へ水増え落ち至る すゑの縒れども子蟹ゐて 夢を誘ひぬ白き泡 なぜ跳ね浮けりクラムボン
やまへみつふえ おちいたる すゑのよれとも こかにゐて ゆめをさそひぬ しろきあわ なせはねうけり くらむほん
・クラムボンという言葉は、宮沢賢治「やまなし」からいただきました。

048
黄昏の街 冬めきぬ 宵にも白く花八手 和装へ笑みゐ眠らせん 愛することを覚えけり
たそかれのまち ふゆめきぬ よひにもしろく はなやつて わさうへゑみゐ ねむらせん あいすることを おほえけり
・季語は「花八手」(初冬・植物)。

049
波しぶき散る寒空へ 羽の舞ひゐて明暮よ 海にえせぬ大声を 色と映すや百合鴎
なみしふきちる さむそらへ はねのまひゐて あけくれよ わたにえせぬ おほこゑを いろとうつすや ゆりかもめ
・季語は「百合鴎」(三冬・動物)。四十七文字。

050
しまる冴え 伊太利亜に冬 跳ねて砂 向かひへも落ち 舗やロゼよ 絵の濡れ裸ゐ 爪を見き 稀有とぞ蠱惑
表(しまるさえ いたりあにふゆ はねてすな むかひへもおち ほやろせよ ゑのぬれらゐ つめをみき けうとそこわく)裏
・表裏仕様の表歌・叙景。四十七文字。

051
過去ぞと受け 君を愛づ ゐられぬの絵よ セロや保持 思へ弾かむ 汝捨てねば 夕にありたい え去るまじ
裏(くわこそとうけ きみをめつ ゐられぬのゑよ せろやほち おもへひかむ なすてねは ゆふにありたい えさるまし)表
・表裏仕様の裏歌・叙情。四十七文字。

052
めづらしき花よせ植ゑむ 根を分けて増え落ち止まず 遠い雲居みゆる頃 枯園にさへ陽あたりぬ
めつらしきはな よせうゑむ ねをわけてふえ おちやます とほいくもゐ みゆるころ かれそのにさへ ひあたりぬ
・季語は「枯園」(三冬・地理)。四十七文字。

053
冬に遊びて衰へん 笑みも消えいり風邪を治す 髫髪ぬくめつ星の夜 童ねむれや玉子酒
ふゆにあそひて おとろへん ゑみもきえいり かせをちす うなゐぬくめつ ほしのよる わらはねむれや たまこさけ
・季語は「玉子酒」(三冬・生活)。

054
寒い裏町 屋根高く 音せり聞こゆ誉めゐつる ピアノを添へ炉話に 笑みて夜も更け忘れえぬ
さむいうらまち やねたかく おとせりきこゆ ほめゐつる ひあのをそへ ろはなしに ゑみてよもふけ わすれえぬ
・季語は「炉話」(三冬・生活)。四十七文字。

055
音もひそかに雨白く え寝ぬ夜を経む涙ゆゑ 笑う様子 待ちて今朝 鶺鴒のゐる初氷
おともひそかに あめしろく えねぬよをへむ なみたゆゑ わらふやうす まちてけさ せきれいのゐる はつこほり
・季語は「初氷」(仲冬・地理)。四十七文字。

056
梢をめざせ家の外 鬼より散れ熱や燃え 駆けて転びゐ涙ぐむ 童歩きぬ冬帽子
こすゑをめさせ いへのそと おによりちれ ねつやもえ かけてまろひゐ なみたくむ わらはあるきぬ ふゆほうし
・季語は「冬帽子」(三冬・生活)。四十七文字。

057
遠き空こえ渡りけむ 風うねるすゑ彷徨ひて 夕に落ちゐ名も述べぬ 青色みつめ暮早し
とほきそらこえ わたりけむ かせうねるすゑ さまよひて ゆふにおちゐ なものへぬ あをいろみつめ くれはやし
・季語は「暮早し」(三冬・時候)。四十七文字。

058
蠱惑する花 褒めつ誘ふ え消せぬ色 闇夜へも 甘き香り 音に酔ひ 揺られてゐたし 胸の内
こわくするはな ほめつさそふ えけせぬいろ やみよへも あまきかをり おとにゑひ ゆられてゐたし むねのうち
・Hommage à Girls’ Generation “Flower Power”. 47s.

059
蒼白い羽 群れゐるや 綿毛多き 絵ぬくもり 真冬つとめて底冷の 打ち寄せ返す波さらに
あをしろいはね むれゐるや わたけおほき ゑぬくもり まふゆつとめて そこひえの うちよせかへす なみさらに
・季語は「底冷」(三冬・時候)四十七文字。

060
海鳥たちの胸白く 清楚に舞ふよ朝ぼらけ 忘れえぬ声 寒凪や 夢終へて果つ思ひゐる
うみとりたちの むねしろく せいそにまふよ あさほらけ わすれえぬこゑ かんなきや ゆめをへてはつ おもひゐる
・季語は「寒凪」(三冬・天象)。

061
嘘みつめゐて骨冷えむ 面痩せ小夜を真綿いれ 帰らぬすゑ冬蜂の 死にどころなく歩きけり
うそみつめゐて ほねひえむ おもやせさよを まわたいれ かへらぬすゑ ふゆはちの しにところなく あるきけり
・季語は「冬蜂」(三冬・動物)。四十七文字。本歌は「冬蜂の死にどころなく歩きけり」(村上鬼城)です。

062
胸こそ騒げ闇へ舞ふ えせぬ夢散る斑にも 世を飢えずゐ鷹のつら きびしく老いて哀れなり
むねこそさわけ やみへまふ えせぬゆめちる ほとろにも よをうゑすゐ たかのつら きひしくおいて あはれなり
・季語は「鷹」(三冬・動物)。四十七文字。本歌は「鷹のつらきびしく老いて哀れなり」(村上鬼城)です。

063
波こえて年立ちかへる千の船 恵方詣も空や沫雪 濡れ竦む御色を告げよ佐保姫に
なみこえて としたちかへる せんのふね ゑはうまゐりも そらやあわゆき ぬれすくむ おいろをつけよ さほひめに
・歳旦三物。季語は、年立かへる(新年・時候)、恵方詣(新年・行事)、佐保姫(三春・天象)。
曲亭馬琴編、藍亭青藍補「増補 俳諧歳時記栞草」1851 では、年立かへる(正月)、沫雪(正月)、佐保姫(三春)。

064
憂き世まどろみ毀れゐつ えせで虚し散り初めぬ 思ひや新た行く末に 平和を願ふ今朝の春
うきよまとろみ こほれゐつ えせてむなし ちりそめぬ おもひやあらた ゆくすゑに へいわをねかふ けさのはる
・季語は「今朝の春」(新年・時候)。四十七文字。

065
欅の梢 根を露地へ 鵯わたれり犬も吠え 踏み初め歩む おとなしく 飾らせてゐる初荷馬
けやきのこすゑ ねをろちへ ひよわたれり いぬもほえ ふみそめあゆむ おとなしく かさらせてゐる はつにうま
・季語は「初荷馬」(新年・行事)。四十七文字。本歌は「おとなしく飾らせてゐぬ初荷馬」(村上鬼城)です。

066
声音たへゐよ馬の背に 冴え険しきも恐れめや 凍つる土地をなほ歩む 末広がりて ふくらみぬ
こわねたへゐよ うまのせに さえけはしきも おそれめや いつるとちを なほあゆむ すゑひろかりて ふくらみぬ
・季語は「凍つ」(三冬・時候)。四十七文字。

067
うさぎ跳ぬるや枯野にて そよぐ色わけ道をなす 背負へ甘え声遠し 円ら眠りゐ旅も夢
うさきはぬるや かれのにて そよくいろわけ みちをなす せおへあまえ こゑとほし つふらねむりゐ たひもゆめ
・季語は「枯野」(三冬・地理)。四十七文字。

068
犬吠え揃ふ山間に きつね追はれ獣道 罠をたくらむ狩人へ 冴ゆる声ゐて寄せしめず
いぬほえそろふ やまあひに きつねおはれ けものみち わなをたくらむ かりうとへ さゆるこゑゐて よせしめす
・季語は「狩人」(三冬・生活)。四十七文字。

069
通りを照らす寒月よ 面輪みゆるや遊び女の 宙へゐ綺麗 華に酔ふ こえさせぬむね玉釧
とほりをてらす かんけつよ おもわみゆるや あそひめの ちうへゐきれい はなにゑふ こえさせぬむね たまくしろ
・季語は「寒月」(三冬・天象)。

070
見よ大空を攻めぬうて 森開くゆゑ隼の 眼居猛し忘れねど 千尋に消えむ いつ帰る
みよおほそらを せめぬうて もりあくゆゑ はやふさの まなこゐたけし わすれねと ちひろにきえむ いつかへる
・季語は「隼」(三冬・動物)。四十七文字。

071
え散らさず浮く花筏 瀞へ零れ堰まで その音や温む故由に 青みつめけり思ひ侘ぶ
えちらさすうく はないかた とろへこほれ ゐせきまて そのねやぬるむ ゆゑよしに あをみつめけり おもひわふ
・季語は「花筏」(晩春・植物)。四十七文字。

072
桜なまめき忘れえぬ 川沿の道 植ゑにけり 世を経む ふと訪ねゐて 愛せし頃や思ほゆる
さくらなまめき わすれえぬ かはそひのみち うゑにけり よをへむ ふとたつねゐて あいせしころや おもほゆる
・季語は「桜」(晩春・植物)。四十七文字。

073
桜咲みけり移ろふも 穏やかなる雨に濡れ 和の装ひへ水滴を 跳ねし地ゆ越え円居せむ
さくらゑみけり うつろふも おたやかなる あめにぬれ わのよそほひへ すいてきを はねしちゆこえ まとゐせむ
・季語は「桜」(晩春・植物)。四十七文字。

074
桜花散る音えせず 寝ゐて過ぎり綿帽子 妹の水辺に遊ぶ声 病むをまぬがれ夢ひろげ
さくらはなちる おとえせす ねゐてよきり わたほうし いものみつへに あそふこゑ やむをまぬかれ ゆめひろけ
・季語は「桜」(晩春・植物)。四十七文字。

075
薄色の尾根 見わたせば 山桜咲む染め匂ふ 揺れり散るか 預けゐて 消えぬ思ひよ常しなへ
うすいろのをね みわたせは やまさくらゑむ そめにほふ ゆれりちるか あつけゐて きえぬおもひよ とこしなへ
・季語は「山桜」(晩春・植物)。四十七文字。

076
枝垂桜の下へ寄す 風は細き枝ふりわけぬ 山笑みゐて夢を編む 内なる音色 恋に落つ
したれさくらの もとへよす かせはほそきえ ふりわけぬ やまゑみゐて ゆめをあむ うちなるねいろ こひにおつ
・季語は「枝垂桜」(晩春・植物)。四十七文字。

077
染井吉野や散りぬるを 彼は誰時 常ならむ 舞ふ泡にさへ教こえて 色多く見ゆ酔ひもせず
そめゐよしのや ちりぬるを かはたれとき つねならむ まふあわにさへ けうこえて いろおほくみゆ ゑひもせす
・季語は「染井吉野」(晩春・植物)。四十七文字。

078
雨音聞こえ忘れ霜 彼方へ去りけむ色匂ひ 空みてやめぬ 願ふゆゑ 余韻せつなく春の歌
あまおときこえ わすれしも をちへさりけむ いろにほひ そらみてやめぬ ねかふゆゑ よゐんせつなく はるのうた
・季語は「忘れ霜」(晩春・天象)。

079
苗代水や田居ぬるむ 宙にて飛燕 輪を描き 世へ富ませけり雨降らす 稲の作こそ思ほゆれ
なはしろみつや たゐぬるむ ちうにてひえん わをゑかき よへとませけり あめふらす いねのさくこそ おもほゆれ
・季語は「苗代水」(晩春・地理)。

080
堰にて田と縁の色 沼蝦およぐ水面愛づ すゑへ眠る魚ゆらり 秀こそさやげれ蘆若葉
ゐせきにてたと ふちのいろ ぬまえひおよく みなもめつ すゑへねむる うをゆらり ほこそさやけれ あしわかは
・季語は「蘆若葉」(晩春・植物)。四十七文字。

081
小手毬の花 風に揺れ 雲居ちる雨おとろへぬ 今日ひたすら胸をうつ 細き枝よわい咲み優し
こてまりのはな かせにゆれ くもゐちるあめ おとろへぬ けふひたすら むねをうつ ほそきえよわい ゑみやさし
・季語は「小手毬の花」(晩春・植物)。四十七文字。

082
雛菊の白みつめゐて えせぬ哀話を数ふれば 眠り安げに思ほゆる 街と歌声 사랑해요
ひなきくのしろ みつめゐて えせぬあいわを かそふれは ねむりやすけに おもほゆる まちとうたこゑ さらんへよ
・季語は「雛菊」(晩春・植物)。

083
浜辺に愛しむ卯月波 遠く雨風こそ忘れ え去らぬゆゑ二人ゐて 千代の音色や思ひける
はまへにをしむ うつきなみ とほくあめかせ こそわすれ えさらぬゆゑ ふたりゐて ちよのねいろや おもひける
・季語は「卯月波」(初夏・地理)。四十七文字。

084
和蘭海芋 白に触る 壷へ寄せけむ後も見き ねびまさりゆく乙女ゐて 忘れえぬ声 あなや其は
おらんたかいう しろにふる つほへよせけむ のちもみき ねひまさりゆく をとめゐて わすれえぬこゑ あなやそは
・季語は「和蘭海芋」(初夏・植物)。

085
揃ひて寝ゐる燕の子 大口開きぬ見せ癒す らうたげなり里へ舞ふ 別れを詠むも縁ゆゑ
そろひてねゐる つはめのこ おほくちあきぬ みせいやす らうたけなり さとへまふ わかれをよむも えにしゆゑ
・季語は「燕の子」(三夏・動物)。四十七文字。

086
目白さへづる青空に 増えゆくみどり多ければ ひねもす若き命ゐて 歌よせなむ止まぬ声
めしろさへつる あをそらに ふえゆくみとり おほけれは ひねもすわかき いのちゐて うたよせなむ やまぬこゑ
・季語は「目白」(三夏・動物)。四十七文字。

087
青野なみうつ色映えて 吹きやまぬ風渡す絵よ 苦さへ散らし通りゐる 胸に夢こそ思ひけれ
あをのなみうつ いろはえて ふきやまぬかせ わたすゑよ くさへちらし とほりゐる むねにゆめこそ おもひけれ
・季語は「青野」(三夏・地理)。四十七文字。

088
心の儘にうたふらむ 青き大空ほととぎす 花咲むゆゑ絶えぬ和歌 蝶や蜂よせ虹の色
こころのままに うたふらむ あをきおほそら ほとときす はなゑむゆゑ たえぬわか てふやはちよせ にしのいろ
・「こころを詠む」前編・叙景。後編との全九十四文字で四十七文字をふたつずつ。

089
峰へ雲居やうねりける 小さくなり夢へ寄す 召されゐて愛思ひつつ えせぬ別れぞ惜しみける
みねへくもゐや うねりける ちひさくなり ゆめへよす めされゐてあい おもひつつ えせぬわかれそ をしみける
・「こころを詠む」後編・叙情。前編との全九十四文字で四十七文字をふたつずつ。

090
童まどろむ夏掛に 木漏れ日の地へ遊ぶすゑ 優しき背 歌おぼえゐて よく寝入りぬ夢を見る
わらはまとろむ なつかけに こもれひのちへ あそふすゑ やさしきせ うたおほえゐて よくねいりぬ ゆめをみる
・季語は「夏掛」(三夏・生活)。四十七文字。

091
青き豌豆飯に炊く 童よろこぶ面みえむ 熱する野辺や風待ちぬ 稲穂ゆれゐて誘ひけり
あをきゑんとう めしにたく わらはよろこふ おもみえむ ねつするのへや かせまちぬ いなほゆれゐて さそひけり
・季語は「豌豆」(初夏・植物)。

092
試しに行きぬ蒸籠蕎麦 口元へ寄す追ひ鰹 選ぶわけなり値や旨味 誉むる声ゐて麻暖簾
ためしにゆきぬ せいろそは くちもとへよす おひかつを えらふわけなり ねやうまみ ほむるこゑゐて あさのれん
・季語は「麻暖簾」(三夏・生活)。

093
えごの花咲く清和ゆゑ 青や染めぬる欠片まで 匂ひ捩れ路へ寄すも うつむきゐたり落し文
えこのはなさく せいわゆゑ あをやそめぬる かけらまて にほひねちれ ろへよすも うつむきゐたり おとしふみ
・季語は「落し文」(三夏・動物)。

094
天地星空山川峰谷 梢の上 群れゐる鳥 消えゆく色 汝を避けて侘ぶ えせぬ思ひよ
あめつちほしそら やまかはみねたに こすゑのうへ むれゐるとり き江ゆくいろ なをさけてわふ えせぬおもひよ
・本歌は「あめつちの詞」。ヤ行エ(江)の四十八文字。

095
梅雨めく音に垂乳根の 聖母笑みゐて明けむ森 弱き幼児え濡るまじ 揃ふや帰れ薄日映え
つゆめくおとに たらちねの せいほゑみゐて あけむもり よわきをさなこ えぬるまし そろふやかへれ うすひは江
・季語は「梅雨めく」(仲夏・時候)。ヤ行エ(江)の四十八文字。

096 あぢさゐ咲まふ揺らめきて 色や映えぬる匂ひけり 寝ず愛しむ歌な別れそ 瀬へ横雲水の音
あちさゐゑまふ ゆらめきて いろやはえぬる にほひけり ねすをしむうた なわかれそ せへよこくも みつのおと
・季語は「あぢさゐ」(仲夏・植物)。四十七文字。

097
明かり煌めく沢思ふ 闇夜待ちゐて螢火の え消せぬ色な忘れそ 胸を打つゆゑ常しへに
あかりきらめく さはおもふ やみよまちゐて ほたるひの えけせぬいろ なわすれそ むねをうつゆゑ とこしへに
・季語は「螢火」(仲夏・動物)。四十七文字。

098
ひそかに萌ゆや黄緑へ 苔の花咲く雨落ちて 打つ音色よ濡れゐるを 渡らせまほし裔増えむ
ひそかにもゆや きみとりへ こけのはなさく あめおちて うつねいろよ ぬれゐるを わたらせまほし すゑふえむ
・季語は「苔の花」(仲夏・植物)。四十七文字。

099
仰向けにも寝てゐたり 打ち寄せし波音聞こゆ 忘れえぬ絵の色を愛づ 浜昼顔や空へ咲く
あふむけにも ねてゐたり うちよせしなみ おときこゆ わすれえぬゑの いろをめつ はまひるかほや そらへさく
・季語は「浜昼顔」(仲夏・植物)。四十七文字。

100
乙女の涙こぼれゐて 色美しきハンカチへ 胸に迫るや落え去らず 訳思ふゆゑ寄り添ひぬ
をとめのなみた こほれゐて いろうつくしき はんかちへ むねにせまるや あえさらす わけおもふゆゑ よりそひぬ
・季語は「ハンカチ」(三夏・生活)。

101
黒南風寄せぬ わたつうみ 船の帆ゆれ示す声 海桐花を千切り綾藺笠 袖に今なむ思ひける
くろはえよせぬ わたつうみ ふねのほゆれ しめすこゑ とへらをちきり あやゐかさ そてにいまなむ おもひける
・季語は「黒南風」(仲夏・天象)。四十七文字。

102
雲湧き出づる空の城 楝ゆれゐて止まぬ風 微妙よむ声翅絶えず 早苗蜻蛉を追ひにけり
くもわきいつる そらのしろ あふちゆれゐて やまぬかせ みめうよむこゑ はねたえす さなへとんほを おひにけり
・季語は「早苗蜻蛉」(仲夏・動物)。

103
鉄漿蜻蛉きえぬ間に 渡る瀬へ見つ冷やしゐて うち洗ふすゑ世を否む 森の夢こそ重ねけれ
おはくろとんほ きえぬまに わたるせへみつ ひやしゐて うちあらふすゑ よをいなむ もりのゆめこそ かさねけれ
・季語は「鉄漿蜻蛉」(三夏・動物)。

104
夕闇せまる頃を愛で 端居に円座 夏茜 遠き命へそよぐらむ 忘れえぬ歌思ひけり
ゆふやみせまる ころをめて はしゐにゑんさ なつあかね とほきいのちへ そよくらむ わすれえぬうた おもひけり
・季語は「夏茜」(三夏・動物)。

105
雨を避けゐて叢雲の 絶えねば問ひ空蝉へ 色や落ちぬる夕さりに 声聴かまほしな忘れそ
あめをよけゐて むらくもの たえねはとひ うつせみへ いろやおちぬる ゆふさりに こゑきかまほし なわすれそ
・季語は「空蝉」(晩夏・動物)。四十七文字。

106
夏茱萸よせて覆ひける 色や誘ふ待ちぬべし 童あえかに眠き声 乙女薄物ゆれゐたり
なつくみよせて おほひける いろやさそふ まちぬへし わらはあえかに ねむきこゑ をとめうすもの ゆれゐたり
・季語は「夏茱萸」(晩夏・植物)。四十七文字。

107
さすらひ揺れ遠き声 森へ止まねば轡虫 風をな受けそ目に見えて 二藍の色落ちぬ夜
さすらひゆれ とほきこゑ もりへやまねは くつわむし かせをなうけそ めにみえて ふたあゐのいろ おちぬよる
・季語は「轡虫」(初秋・動物)。四十七文字。

108
はかなさをいとほしむ秋暮れにけり ゆめ虚ろ夜へ立ちゐて杜松の蝉声ぞえ止まぬ思ひ侘ぶらん
はかなさを いとほしむ あきくれにけり ゆめうつろ よるへたちゐて ねすのせみ こゑそえやまぬ おもひわふらん
・俳句(折句「俳句」)+短歌。季語は「秋」(三秋・時候)。

109
音や敵はぬ法師蝉 歌ひ喚き連ねゐて 明日より今を地へ燃えむ 狗尾草ぞ揺れにける
おとやかなはぬ ほふしせみ うたひわめき つらねゐて あすよりいまを ちへもえむ ゑのころくさそ ゆれにける
・季語は「法師蝉」(初秋・動物)。四十七文字。

110
緋衣草の咲みゐたる 艶めく街へなほ歩む 果てを知らねど癒えぬ傷 そよかぜ和音ふれにけり
ひころもさうの ゑみゐたる つやめくまちへ なほあゆむ はてをしらねと いえぬきす そよかせわおん ふれにけり
・季語は「緋衣草」(晩夏・植物)。

111
鶺鴒鳴けり思ふほど さやかに跳ねて渡らむを 越えゆく地へ見据ゑゐる そろひ打つ雨 葦の沼
せきれいなけり おもふほと さやかにはねて わたらむを こえゆくちへ みすゑゐる そろひうつあめ よしのぬま
・季語は「鶺鴒」(三秋・動物)。四十七文字。

112
閻魔蟋蟀 轍跳ぬ 叢のすゑ見失ふ 青へと揺れゐ音や出づる そよかぜに愛で思ひけり
えんまこほろき わたちはぬ くさむらのすゑ みうしなふ あをへとゆれゐ ねやいつる そよかせにめて おもひけり
・季語は「閻魔蟋蟀」(三秋・動物)。

113
輪飾や老い宴を告げ招きぬる 節饗褒めよ屠蘇に酔ふ頃 鶯の戯れも見ゆ馴らしゐて
わかさりや おいえんをつけ まねきぬる せちあへほめよ とそにゑふころ うくひすの たはむれもみゆ ならしゐて
・歳旦三物。季語は、輪飾(新年・生活)、屠蘇(新年・生活)、鶯(三春・動物)。

114
梢を見あげ色や冴え 舞ふ雪背の童へと 寝顔に落ちん染めよ歌 群れゐる羊ぬくもりて
こすゑをみあけ いろやさえ まふゆきせなの わらはへと ねかほにおちん そめようた むれゐるひつし ぬくもりて
・季語は「雪」(晩冬・天象)。

115
風立ちのぼりそよぐ音 帰路も藍さへ眠るやう 忘れえぬゆゑ満月に 目を見ひらいて花こぶし
かせたちのほり そよくおと きろもあゐさへ ねむるやう わすれえぬゆゑ まんけつに めをみひらいて はなこふし
・季語は「花こぶし」(仲春・植物)。本歌は「満月に目を見ひらいて花こぶし」(飯田龍太)です。

116
色褪せむほど霙落つ 今日 下萌に彷徨ひぬ 地を揺りゐて屋根の上 啼きわめく声 春鴉
いろあせむほと みそれおつ けふしたもえに さまよひぬ ちをゆりゐて やねのうへ なきわめくこゑ はるからす
・季語は「春鴉」(三春・動物)。

117
花ぞ降りけむ用水に 満つる甘露あたへゐて 大声や惜しえ覚ませぬ ねぢれゆらめき蝌蚪の紐
はなそふりけむ ようすいに みつるかんろ あたへゐて おほこゑやをし えさませぬ ねちれゆらめき くわとのひも
・季語は「蝌蚪の紐」(晩春・動物)。

118
分け入る山の諸声に 草根ゆれ初め土を踏む 余韻え失せず新しき 緑覆ひぬ花楓
わけいるやまの もろこゑに くさねゆれそめ つちをふむ よゐんえうせす あたらしき みとりおほひぬ はなかへて
・季語は「花楓」(晩春・植物)。
語彙:(万葉 435 )みつみつし久米の若子がい触れけむ磯の草根の枯れまく惜しも

119
梢渡りぬ風の音 胸打つ色やあらまほし くれなゐ映え夕を愛で 宵へもみぢぞ咲きにける
こすゑわたりぬ かせのおと むねうついろや あらまほし くれなゐはえ ゆふをめて よひへもみちそ さきにける
・季語は「もみぢ咲く」(晩春・植物)。四十七文字。

120
かすみぬる山土匂ひ 青空晴れ冴えゐたり 苗床の夢 根分けして 思ふ色寄せ菊植ゑむ
かすみぬるやま つちにほひ あをそらはれ さえゐたり なへとこのゆめ ねわけして おもふいろよせ きくうゑむ
・季語は「菊植う」(晩春・植物)。四十七文字。

121
まばゆく千の輪降りなむ え散らぬすゑにこそ透れ 思ひゐ愛づる歌詠みし 音色さやけき青楓
まはゆくせんの わふりなむ えちらぬすゑに こそとほれ おもひゐめつる うたよみし ねいろさやけき あをかへて
・季語は「青楓」(初夏・植物)。

122
紫に白あやめ野は 常こそ通へ通る道 女ゐて生く忘れえぬ 失せたまふゆゑ思ひけり
むらさきにしろ あやめのは つねこそかよへ とほるみち をんなゐていく わすれえぬ うせたまふゆゑ おもひけり
・季語は「あやめ」(仲夏・植物)。

123
紫陽花うすし夕焼けて かろき翅音隠り沼に 蛍舞ひ初め童よせ 永遠を見む夏の暮
あちさゐうすし ゆふやけて かろきはねおと こもりぬに ほたるまひそめ わらへよせ えいゑんをみむ なつのくれ
・季語は「夏の暮」(三夏・時候)。

124
泳ぎの絶えぬ天使魚 真秀場ゆれゐ絵ぞ生くる 猫せつなさへ絡めども 泡増やす身に散りけむ日
およきのたえぬ てんしうを まほろはゆれゐ ゑそいくる ねこせつなさへ からめとも あわふやすみに ちりけむひ
・季語は「天使魚」(三夏・動物)。

125
あそび喜ぶ水澄し 輪を描きなむ目の模様 音ちらせぬる藺草経て 田んぼ稲ゆれ映えにけり
あそひよろこふ みつすまし わをゑかきなむ めのもやう おとちらせぬる ゐくさへて たんほいねゆれ はえにけり
・季語は「水澄し」(三夏・動物)。

126
大空青く晴れ渡る 露地へ絵日傘 池に葦 真夏の子供眠りゐて ゆめ休みえぬ扇風機
おほそらあをく はれわたる ろちへゑひかさ いけによし まなつのことも ねむりゐて ゆめやすみえぬ せんふうき
・季語は「扇風機」(三夏・生活)。

127
そらの流れし色へ寄せ 結葉を愛づ里山に ふたり笑みゐて声音聴く 思ほゆる縁うちあけぬ
そらのなかれし いろへよせ むすひはをめつ さとやまに ふたりゑみゐて こわねきく おもほゆるえん うちあけぬ
・季語は「結葉」(三夏・植物)。

128
闇夜ほつれ毛揃へゐて えせぬ思ひを侘ぶるすゑ 朝に絶ちなん いと眠り 夢の浮橋 籠枕
やみよほつれけ そろへゐて えせぬおもひを わふるすゑ あさにたちなん いとねむり ゆめのうきはし かこまくら
・季語は「籠枕」(三夏・生活)。

129
そよぐ水面や飛燕舞ふ 遠目青鷺瀬へ降りぬ 羽の揺れゐて治する頃 植田しづかに分け入らむ
そよくみなもや ひえんまふ とほめあをさき せへおりぬ はねのゆれゐて ちするころ うゑたしつかに わけいらむ
・季語は「青鷺」(三夏・動物)。

130
声待ち侘ぶる愁ひ顔 扇子およげり胸に添へ え褪めぬ色の焚くを見ゆ 藍やはらぎて夏灯
こゑまちわふる うれひかほ せんすおよけり むねにそへ えさめぬいろの たくをみゆ あゐやはらきて なつともし
・季語は「夏灯」(三夏・生活)。

131
屋根に色揺る晴れの折 泳ぐさかなと童ゐて 水遊びせむしぶき受け 木綿干す町絶えぬ声
やねにいろゆる はれのをり およくさかなと わらへゐて みつあそひせむ しふきうけ もめんほすまち たえぬこゑ
・季語は「水遊び」(三夏・生活)。

132
夏の絵 夜店立ち竦む 和金いとほし跳ね逃げて 鱗へ灯り目を誘ふ えやまぬ思ひ揺られゐる
なつのゑよみせ たちすくむ わきんいとほし はねにけて うろこへあかり めをさそふ えやまぬおもひ ゆられゐる
・季語は「夜店」(三夏・生活)。

133
絶えぬ雨音そも眠し 童絵本をめくりゐて 薄日や見ゆる鳴け命 風によろこぶ五月晴
たえぬあまおと そもねむし わらへゑほんを めくりゐて うすひやみゆる なけいのち かせによろこふ さつきはれ
・季語は「五月晴」(仲夏・天象)。

134
天地に広く風渡り 早苗植ゑゐる乙女見つ 踏む間よ映えぬ安らけし 秋の稲こそ思ほゆれ
てんちにひろく かせわたり さなへうゑゐる をとめみつ ふむまよはえぬ やすらけし あきのいねこそ おもほゆれ
・季語は「早苗」(三夏・植物)。

135
思ひ割れ散り身ぞ責めむ なほ彷徨へど蘭を得て 尽きぬ色ゆゑ薄藍に 下る小舟や夏至の川
おもひわれちり みそせめむ なほさまよへと らんをえて つきぬいろゆゑ うすあゐに くたるこふねや けしのかは
・季語は「夏至」(仲夏・時候)。本歌は「薄藍に下る小舟や夏至の川」(砂女)です。

136
雲湧き出づる空に声 灼けゐて揺れん鐘の音 宙へえ覚めぬ幻よ 汗ばみ浸り砂を踏む
くもわきいつる そらにこゑ やけゐてゆれん かねのおと ちうへえさめぬ まほろしよ あせはみひたり すなをふむ
・季語は「汗ばむ」(三夏・生活)。

137
弦の音色に遊びゐる 乙女覆はれ詩賦うみて すゑへえ止まぬ弱き風 百合も咲くらむ夏木立
けんのねいろに あそひゐる をとめおほはれ しふうみて すゑへえやまぬ よわきかせ ゆりもさくらむ なつこたち
・季語は「夏木立」(三夏・植物)。

138
夜道浮草蛍火の 忘れえぬ色染めにけり やをら願へど無言ゆゑ 藍は切なし思ふまで
よみちうきくさ ほたるひの わすれえぬいろ そめにけり やをらねかへと むこんゆゑ あゐはせつなし おもふまて
・季語は「蛍火」(仲夏・動物)。

139
矢車草の夏に恋ふ そよめき咲む見渡す地 思へば遠し揺られゐて え褪せぬ色を願ひけり
やくるまさうの なつにこふ そよめきゑむ みわたすち おもへはとほし ゆられゐて えあせぬいろを ねかひけり
・季語は「矢車草」(仲夏・植物)。四十七文字。

140
大空広く晴れ渡り 夏鴨の声青き線 夢へと待ちて眠さうに 休みゐる池葦殖えぬ
おほそらひろく はれわたり なつかものこゑ あをきせん ゆめへとまちて ねむさうに やすみゐるいけ よしふえぬ
・季語は「夏鴨」(三夏・動物)。

141
夜更け荒梅雨音を聞く 野生まぼろし埋もれ込む 寝覚め避難地野辺にてぞ 渡りえぬ川見据ゑゐる
よふけあらつゆ おとをきく やせいまほろし うもれこむ ねさめひなんち のへにてそ わたりえぬかは みすゑゐる
・季語は「荒梅雨」(仲夏・天象)。

142
蔽ふ緑を背に紅し ゆられそよめき花石榴 眠気費やす公園へ 妹の待ちゐて鵺渡る
おほふみとりを せにあかし ゆられそよめき はなさくろ ねむけつひやす こうゑんへ いものまちゐて ぬえわたる
・季語は「花石榴」(仲夏・植物)。

143
渡りけむゆゑ雨落ちぬ 仄暗き闇うつろひて 寄せゐる幼こそ護れ 縁へ厭はず願ふ虹
わたりけむゆゑ あめおちぬ ほのくらきやみ うつろひて よせゐるをさな こそまもれ えんへいとはす ねかふにし
・季語は「虹」(三夏・天象)。

144
衣絵扇やはらかに ゆれゐて薄し昼寝覚 便り尽くせどなほ見えぬ 和音を芸へ待ち望む
ころもゑあふき やはらかに ゆれゐてうすし ひるねさめ たよりつくせと なほみえぬ わおんをけいへ まちのそむ
・季語は「昼寝覚」(三夏・生活)。

145
花もほころぶ青雲へ 荒れ初めし野を分けて咲む 迷ひ道すら消えぬ音 蚊帳吊草に委ねゐる
はなもほころふ せいうんへ あれそめしのを わけてゑむ まよひみちすら きえぬおと かやつりくさに ゆたねゐる
・季語は「蚊帳吊草」(晩夏・植物)。

146
大風騒ぐ天広し 燕舞ふ地へ青田波 稲そよぎゐるすゑ越えぬ 斑と模様の揺れにけり
おほかせさわく てんひろし つはめまふちへ あをたなみ いねそよきゐる すゑこえぬ むらともやうの ゆれにけり
・季語は「青田波」(晩夏・地理)。

147
おほとろいくら握り鮓 椀物ながめみぞれ酒 委ね待ちゐて艶映えむ 失せぬ絵を恋ひ夜へ会ふ
おほとろいくら にきりすし わんものなかめ みそれさけ ゆたねまちゐて つやはえむ うせぬゑをこひ よるへあふ
・季語は「握り鮓」(三夏・生活)。

148
木立そよかぜ揺らぎゐる 花合歓咲み匂ひけり 青へ美し里山の 忘れえぬ色愛で思ふ
こたちそよかせ ゆらきゐる はなねむゑみ にほひけり あをへうつくし さとやまの わすれえぬいろ めておもふ
・季語は「花合歓」(晩夏・植物)。四十七文字。

149
どの色染めてかき氷 はづむ模様へ匙まわす 遅れ毛ゆだね並びゐる 会瀬縁日夜を笑みぬ
とのいろそめて かきこほり はつむもやうへ さしまわす おくれけゆたね ならひゐる あふせえんにち よをゑみぬ
・季語は「かき氷」(三夏・生活)。

150
夜風を誘ふ絃の音 露台へ甘く聞こえぬる なほ座りゐて胸に満ち つゆ秘められじ絵羽模様
よかせをさそふ けんのおと ろたいへあまく きこえぬる なほすわりゐて むねにみち つゆひめられし ゑはもやう
・季語は「露台」(三夏・生活)。

151
覆ふ草越え土に這ひ すゑへ渡らん青蜥蜴 色謎めきゐ縞模様 背の濡れて夜眠り見ゆ
おほふくさこえ つちにはひ すゑへわたらん あをとかけ いろなそめきゐ しまもやう せのぬれてよる ねむりみゆ
・季語は「青蜥蜴」(三夏・動物)。

152
白装ゆれて藍の襟 大空を呼ぶ若き声 視線水色胸に秘め 灼けたる砂へ友待ちぬ
はくさうゆれて あゐのえり おほそらをよふ わかきこゑ しせんみついろ むねにひめ やけたるすなへ ともまちぬ
・季語は「白装」(三夏・生活)。

153
白き峰越え風渡る 遠く山裾乱鶯の さへづり揺れゐ妹よ今日 咲む花を愛で地に追ひぬ
しろきみねこえ かせわたる とほくやますそ らんあうの さへつりゆれゐ いもよけふ ゑむはなをめて ちにおひぬ
・季語は「乱鶯」(三夏・動物)。

154
浴衣うつくし藍に染め 背を追ふ声夜さへも 色煙見き寺の屋根 忘れえぬ町遠花火
ゆかたうつくし あゐにそめ せをおふこゑ よるさへも いろけむりみき てらのやね わすれえぬまち とほはなひ
・季語は「遠花火」(晩夏・生活)。四十七文字。

155
玲瓏 寝覚む安らけし 天より野辺に風立ちぬ 夢ぞ侘びゐる声思ふ 遠く花見え秋を待つ
れいろうねさむ やすらけし てんよりのへに かせたちぬ ゆめそわひゐる こゑおもふ とほくはなみえ あきをまつ
・季語は「秋を待つ」(晩夏・時候)。

156
ふくらみ咲まむ桔梗の 根ざしゐることな忘れそ 天にも宵を覚えけり ゆめ褪せぬ色伝へばや
ふくらみゑまむ きちかうの ねさしゐること なわすれそ てんにもよひを おほえけり ゆめあせぬいろ つたへはや
・季語は「桔梗」(初秋・植物)。

157
冠羽そよげる五位鷺や 風へ委ね青と白 眼は沼見据ゑなほ怜悧 円らに燃えて陽の落ちむ
くわんうそよける こゐさきや かせへゆたね あをとしろ めはぬまみすゑ なほれいり つふらにもえて ひのおちむ
・五位鷺。

158
黄揚羽渡る草揺れぬ まぼろしのやう蜜を追ひ 芹にぞ寄らん求めゐて 地平越えなむ末願ふ
きあけはわたる くさゆれぬ まほろしのやう みつをおひ せりにそよらん もとめゐて ちへいこえなむ すゑねかふ
・黄揚羽。

159
忘れえぬ恋彼方見つむ 玉響会ふも叶はねど そよぎゐる色絵の上に せめて清けし送り盆
わすれえぬこひ をちみつむ たまゆらあふも かなはねと そよきゐるいろ ゑのうへに せめてさやけし おくりほん
・季語は「送り盆」(初秋・行事)。

160
わだつみ白く声染めぬ 泳げる魚遠浅へ 待ちゐて揺れむ鯊船や 入江の凪に日もすがら
わたつみしろく こゑそめぬ およけるうを とほあさへ まちゐてゆれむ はせふねや いりえのなきに ひもすから
・季語は「鯊船」(三秋・生活)。四十七文字。本歌は「鯊船や入江の凪に日もすがら」(水原秋桜子)です。

161
宵へ降る雨濡つ山 紅葉紅鹿の声 景を揺らす撓む枝に 兄鷹驚きて跳ね去りぬ
よひへふるあめ そほつやま もみちくれなゐ しかのこゑ けいをゆらす たわむえに せうおとろきて はねさりぬ
・季語は「鹿の声」(三秋・動物)。四十七文字。

162
茜さす日を染めゐると 伝へられむ今日越えて 笑ましき面や千代に栄ゆ 稲穂実りぬ黄櫨染
あかねさすひを そめゐると つたへられむ けふこえて ゑましきおもや ちよにはゆ いなほみのりぬ くわうろせん
・黄櫨染。

163
亜麻色を寄せ萱鼠 宙に音愛づ虫の声 日照雨穂草靡きゐて 増えぬる絮も揺られけり
あまいろをよせ かやねすみ ちうにおとめつ むしのこゑ そはへほくさ なひきゐて ふえぬるわたも ゆられけり
・季語は「穂草」(三秋・植物)。四十七文字。

164
色濃く重き実山椒 匂ひたつゆゑ眠りゐる 寄らしめぬ枝へ揚羽蝶 彼の山と地をな忘れそ
いろこくおもき みさんせう にほひたつゆゑ ねむりゐる よらしめぬえへ あけはてふ かのやまとちを なわすれそ
・季語は「実山椒」(初秋・植物)。

165
藍へと夜空 風薄れ 道草にて湧き出づる なほもえ止まぬ虫の声 夢を追ふ翅ひろげたり
あゐへとよそら かせうすれ みちくさにて わきいつる なほもえやまぬ むしのこゑ ゆめをおふはね ひろけたり
・季語は「虫の声」(三秋・動物)。四十七文字。

166
青へ融けむや鱗雲 畏れ秘めて待つすゑに 儚き命ゆだねゐる 弱りえ去らぬ法師蝉
あをへとけむや うろこくも おそれひめて まつすゑに はかなきいのち ゆたねゐる よわりえさらぬ ほふしせみ
・季語は「法師蝉」(初秋・動物)。四十七文字。

167
黄金の稲そよぎゐる え止まぬ風に穂も揺れて 裔へと恵みあらむ土 靡けば房を降ろしたり
わうこんのいね そよきゐる えやまぬかせに ほもゆれて すゑへとめくみ あらむつち なひけはふさを おろしたり
・季語は「稲」(三秋・植物)。

168
秋雨の音うつる色 身をゆだねゐて恋慕せり 花ぞ好く声帰らぬや 縁待ち侘び夜も更けむ
あきさめのおと うつるいろ みをゆたねゐて れんほせり はなそすくこゑ かへらぬや えにしまちわひ よもふけむ
・季語は「秋雨」(三秋・天象)。

169
絵双六 賽を追ふ顔 映えにけり 弾初の音も浴むなる詩箋 わたつ海やまぬ千代へと揺られゐて
ゑすころく さいをおふかほ はえにけり ひきそめのねも あむなるしせん わたつうみ やまぬちよへと ゆられゐて
・歳旦三物。季語は、絵双六(新年・生活)、弾初(新年・生活)、雑の句。

170
老猿吼ゆる白き尾根 岩こそ割れめ谷へ落つ 風や澄みなむ雲の縁 夜明冴えゐて鳥舞ひぬ
らうゑんほゆる しろきをね いはこそわれめ たにへおつ かせやすみなむ くものふち よあけさえゐて とりまひぬ
・老猿。

171
大旦 八千代の里をそめにけり 若水汲むも失せぬ銀色 ゆられゐる絵馬へ伏す猫 花冷えて
おほあした やちよのさとを そめにけり わかみつくむも うせぬきんいろ ゆられゐる ゑまへふすねこ はなひえて
・歳旦三物。季語は、大旦(新年・時候)、若水(新年・生活)、花(晩春・時候)。

172
初鶏鳴きぬ 声高く 寝ゐる天地を覚ませしむ 和すや玲瓏 眼に及び 冬空も見え 曙へ
はつとりなきぬ こゑたかく ねゐるてんちを さませしむ わすやれいろう めにおよひ ふゆそらもみえ あけほのへ
・初鶏。

173
消ゆる木の音を伝へし絵 秘話そめあげぬ 地 観にゐて 翠 江 浦 窪 思ふ間は 鱗よ瀞や瀬 群れ魚
表(きゆるこのねを つたへしゑ ひわそめあけぬ ちみにゐて すいえうらくほ おもふまは りんよとろやせ むれさかな)裏
・表裏仕様の表歌。

174
流されむ瀬や艪と四里 葉 舞ふも多く朗詠す 出居に道ぬけ雨ぞ侘び 絵師へ立つ尾根 残る雪
裏(なかされむせや ろとよんり はまふもおほく らうえいす てゐにみちぬけ あめそわひ ゑしへたつをね のこるゆき)表
・表裏仕様の裏歌・雪。

 

現代仮名遣いによる作品 67 首

・「今日の季語」#kigo による題詠を、自由律の今様・自由詩・散文詩で試みています。「短歌研究」2013年11月号 千葉聡氏による「口語いろは歌」は、小文字と長音符の使用による特殊なルールで、現代仮名遣いによる今様の形式を保護するものです。

001
青空へ囀る目白 沼の舟を伝う翡翠 木漏れ日に散りゆく花 ほどけ止む好い天気
あおそらへ さえするめしろ ぬまのふねを つたうかわせみ こもれひに ちりゆくはな ほとけやむ よいてんき
・季語は「目白」(三夏・動物)。

002
卯月波 白く寄せ
光の環 散らすとは
雨に濡れ また小屋へ
細面
胸を揺さぶる 遠景

うつきなみ しろくよせ
ひかりのわ ちらすとは
あめにぬれ またこやへ
ほそおもて
むねをゆさふる えんけい
・季語は「卯月波」(初夏・地理)。

003
ふわり覚めよ昼寝 その声は悩ましく衣擦れに蕩け 和蘭海芋を見せて持ち壷へ歩む
ふわりさめよひるね そのこえはなやましく きぬすれにとろけ おらんたかいうをみせてもち つほへあゆむ
・季語は「和蘭海芋」(初夏・植物)。

004
きゃりー(ぱみゅ)^2 にらむ頬
エナメルを塗れマーケット
遊ぶ白猫 膝へ乗せ
超可愛くてモンスター

きゃりーはみゅつー にらむほお
えなめるをぬれ まーけっと
あそふしろねこ ひさへのせ
ちょうかわいくて もんすたー
・きゃりーぱみゅぱみゅ。口語いろは歌。

005
名前は秘密 シャーロック
ワトスン行かせ 街小雨
ホールぬけられ モリアーティ
恐怖の谷へ 謎を追え

ねーむはひみつ しゃーろっく
わとすんゆかせ まちこさめ
ほーるぬけられ もりあーてぃ
きょうふのたにへ なそをおえ
・シャーロック・ホームズ。口語いろは歌。

006
姫よ部屋の絵 なぜぬけた
ゾウ・キリン・カバ くま・おさる
白っぽいトラ ワニも観て
ぶち猫を連れ 歩む動物園

ひめよへやのえ なせぬけた
そうきりんかは くまおさる
しろっほいとら わにもみて
ふちねこをつれ あゆむすー
・動物園。口語いろは歌。

007
セミのぬけがら 集め持ち
ひなた向きにと 揃えてる
レーンを屋根へ 行く尻尾
ふわり おはようございます

せみのぬけから あつめもち
ひなたむきにと そろえてる
れーんをやねへ ゆくしっほ
ふわり おはようこさいます
・季語は「セミのぬけがら」(晩夏・動物)。口語いろは歌。

008
夏茱萸の赤 もぎる姫
とれたて揃え 庭をぬけ
ムーン屋根地へ 尻尾ふせ
ゆらり おはようございます

なつくみのあか もきるひめ
とれたてそろえ にわをぬけ
むーんやねちへ しっほふせ
ゆらり おはようこさいます
・季語は「夏茱萸」(晩夏・植物)。口語いろは歌。

009
空を舞う夢 ブルージェイ
黒リス跳ねて 木漏れ日に
月夜ぬけみち オポッサム
カナダの色調合わせ 部屋

そらをまうゆめ ふるーしぇい
くろりすはねて こもれひに
つきよぬけみち おほっさむ
かなたのとーんあわせ へや
・カナダの動物たち。口語いろは歌。

010
羽音 そろり小さな子
見えた揺らめき 艶 模様
野をぬけ世話し 光る群れ
手 頬 甘く スプーンに

はねおとそろり ちいさなこ
みえたゆらめき つやもよう
のをぬけせわし ひかるむれ
てほっへあまく すふーんに
・折句「はちみつの日です」。口語いろは歌。

011
ハチミツ塗ろう 好きなだけ
森へプーさん ピグレット
ティガー お空に声あわせ
夜を眠る山 夢の星

はちみつぬろう すきなたけ
もりへふーさん ひくれっと
てぃかー おそらにこえあわせ
よをねむるやま ゆめのほし
・クマのプーさん。口語いろは歌。

012
猫 布かぶり なぜそっち
雄叫び喚くハロウィーン
魔女 杖を手に紫へ
ポーズもアート 揺れる闇

ねこぬのかふり なせそっち
おたけひわめく はろうぃーん
ましょつえをてに むらさきへ
ほーすもあーと ゆれるやみ
・ハロウィーン。口語いろは歌。

013
ぬり絵へひそむ輪や線の
ほら夜更け頃 床を跳ね
お友達連れ なぐさめに
ミッキー・マウス愛してる

ぬりえへひそむ わやせんの
ほらよふけころ ゆかをはね
おともたちつれ なくさめに
みっきーまうす あいしてる
・ミッキー・マウス。口語いろは歌。

014
ボジョレーヌーヴォー飲みながら
外には冷やり積る雪
あまい声で目を伏せた
炉辺 スケッチ さわぐ胸

ほしょれーぬーうぉー のみなから
そとにはひやり つもるゆき
あまいこえて めをふせた
ろへん すけっち さわくむね
・ボジョレーヌーヴォー。口語いろは歌。

015
ビーフを煮込む鍋の熱
お皿ゆったりポーク揚げ
ローストチキン塗れ回せ
じゃがいも添える妙は目で

ひーふをにこむ なへのねつ
おさらゆったり ほーくあけ
ろーすとちきん ぬれまわせ
しゃかいもそえるみょうはめて
・いい肉の日。口語いろは歌。

016
サンタクロース トナカイの
橇にゆられて靄をぬけ
ひっつめ おねむ 希望見え
街へしあわせ運ぶ夜

さんたくろーす となかいの
そりにゆられて もやをぬけ
ひっつめ おねむ きほうみえ
まちへしあわせ はこふよる
・サンタクロース。口語いろは歌。

017
空みつめ鳴く猫ふえた
惚れる まどろむ 森をぬけ
しあわせの丘 山頂へ
すてき ハッピーニューイヤー

そらみつめなく ねこふえた
ほれる まとろむ もりをぬけ
しあわせのおか さんちょうへ
すてき はっひーにゅーいやー
・ハッピーニューイヤー。口語いろは歌。

018
牧場に夕日 草の鳴る
空より屋根へ雨も落ち
むせて路をぬけ わんこ吠え
ストレイシープ見つかった

まきはにゆうひ くさのなる
そらよりやねへ あめもおち
むせてろをぬけ わんこほえ
すとれいしーふ みつかった
・ストレイシープ。口語いろは歌。「路」はグラフ理論の用語。

019
ガレット・ショコラわたす朝
ローキーの街 全景へ
手や指ふるえ頬を染め
波打つ胸は ぬくもりに

かれっとしょこら わたすあさ
ろーきーのまち せんけいへ
てやゆひふるえ ほおをそめ
なみうつむねは ぬくもりに
・バレンタインデー。口語いろは歌。

020
夜更け ひっそり眠る頃
見えた惑星 お月さま
うちにも夢を 流れ星
スヌード編んで薔薇の部屋

よふけひっそり ねむるころ
みえたわくせい おつきさま
うちにもゆめを なかれほし
すぬーとあんて はらのへや
・スヌード。口語いろは歌。

021
ラングスティーヌ ポワレせよ
ハーブと燃える火を見つめ
煮込むお鍋だ 湯気 熱気
灯りの誘う街や路地

らんくすてぃーぬ ほわれせよ
はーふと もえるひをみつめ
にこむおなへた ゆけ ねっき
あかりのさそう まちやろし
・ラングスティーヌ。口語いろは歌。

022
きぬげねずみは平穏に
前横後 たわむれて
絶美の空や草もとめ
ユーカリチップ 穴を掘る

きぬけねすみは へいおんに
まえよこうしろ たわむれて
せつひのそらや くさもとめ
ゆーかりちっふ あなをほる
・きぬげねずみ。口語いろは歌。

023

なる
さっき
くむみす
おゆひぬれ
とわをあそふ
めいろ えこー
たねつほより
ちらしても
のやまへ
かせん
けう


葉 鳴る 先 汲む水 お指濡れ 永久を遊ぶ 迷路 Echo 種壷より 散らしても 野山へ 果然 稀有 に
花咲く乙女たちのかげに
・幾何学的形象詩 三角形+折句。口語いろは歌。プルースト「失われた時を求めて」より。

024


朝のスローな船 夢を紡いで そら本も 湿気 へ 記憶 甦る マドレーヌ割り 紅茶に浸せば
・幾何学的形象詩 三角形×2。口語いろは歌。プルースト「失われた時を求めて」より。

025
カヌレ焼き色 目に映えて
ラム酒ほんのり くちづけた
なぜ呼ぶ 想う ソネットへ
コーヒーミルをまわす朝

かぬれやきいろ めにはえて
らむしゅほんのり くちつけた
なせよふ おもう そねっとへ
こーひーみるを まわすあさ
・カヌレ。口語いろは歌。

026
キヌアサラダに揺れる胸
声を弱めて灯も消せば
魔法つながり未知の部屋
白いスプーンそっと置く

きぬあさらたに ゆれるむね
こえをよわめて ひもけせは
まほうつなかり みちのへや
しろいすふーん そっとおく
・キヌアサラダ。口語いろは歌。

027
イースター・エッグ 転がらせ
庭より果て 眠るほど
秘密の門を町へぬけ
おしゃれなうさぎ遊ぶ夢

いーすたーえっく ころからせ
にわよりはて ねむるほと
ひみつのもんを まちへぬけ
おしゃれなうさき あそふゆめ
・イースター・エッグ。口語いろは歌。

028
黄色しあわせチューリップ
ぽよんと跳ねた お姫さま
かすみへ濡れて小屋に笑む
ウールの雲をつなげ空

きいろしあわせ ちゅーりっふ
ほよんとはねた おひめさま
かすみへぬれて こやにえむ
うーるのくもを つなけそら
・チューリップ。口語いろは歌。

029
メープルシュガー レモンの酢
バター揃えてラムに酔う
ホワイトを塗りナッツ揚げ
店へチビ猫 お客さま

めーふるしゅかー れもんのす
はたーそろえて らむによう
ほわいとをぬり なっつあけ
みせへちひねこ おきゃくさま
・メープルシュガー。口語いろは歌。

030


誘う素足 濡れ 語り 開く本 モノは回る 音 部屋に船 見えて
レインコート着て 白く寄せる波 移りゆけば眼に 作家 無をも知へ
・幾何学的形象詩 碁盤歌。口語いろは歌。メフィスト 2015 VOL.1 発売記念(竹本健治「涙香迷宮」掲載)。

031
きぬさやえんどう 鍋に熱
タマゴを割って絡めれば
ほのお遊び白い湯気
持ち寄りみせる スープくむ

きぬさやえんとう なへにねつ
たまこをわって からめれは
ほのおあそひ しろいゆけ
もちよりみせる すーふくむ
・きぬさやえんどう。口語いろは歌。

032
モダンローズは庭で揺れ
きらり そよ風 茱萸を告げ
町へ古風なメヌエット
やさしいぴあの 眠る頬

もたんろーすは にわてゆれ
きらりそよかせ くみをつけ
まちへこふうな めぬえっと
やさしいひあの ねむるほお
・古風なメヌエット。口語いろは歌。嶋田さくらこ「やさしいぴあの」書肆侃侃房 2013。

033

ほお
そらに
めーるを
けものたつ
さんせっとへ
しろ やねより
かみひこうき
いぬくわえ
すなはま
あゆむ
ふれ


知 頬 空に メールを 獣立つ サンセットへ 城 屋根より 紙飛行機 犬咥え 砂浜 歩む 触れて
・幾何学的形象詩「三角定規詩」。お題「紙飛行機 空 海 けもの」。口語いろは歌。

034
白い花散り 透ける碧
莢に秘められ 細く萌え
天与へと立つ
翡翠 沼をゆき 舟の向こう

しろいはなちり すけるあお
さやにひめられ ほそくもえ
てんよへとたつ
かわせみ ぬまをゆき ふねのむこう
・季語は「翡翠」(三夏・動物)。

035


江 澤 依り代 細い鮎 銀の山女も 木立ぬける風 すべて膨らみ つねに群れ 人追う 花を
・幾何学的形象詩「三角定規詩」葉月野様式。夏の川。

036


江 蟹 半袖 帆の乳房 波せまり濡れ 色溶け揺らめく 横たわる靄 胸を打つ 引潮 明日へ
・幾何学的形象詩「三角定規詩」葉月野様式。夏の海。

037


巨樹 Puppy を保護 Pop Farm おこげ 찌짐 湯葉 Mayonnaise Bon Appetit Seleção は Shower ざぶり Yeh True Love Janus Ganymede へ Zero かぞえ Gig 叫べど ただ続く日々 NO MORE WAR
・幾何学的形象詩 長方形。口語いろは歌。直音+拗音+撥音+促音+外来語の表記に用いる仮名と符号。

038
カヌー漕ぎゆく水面へ
ヨットに白の帆も見えて
空青ければ胸を打ち
せつなさ破り廻る旅

かぬーこきゆく すいめんへ
よっとにしろの ほもみえて
そらあおけれは むねをうち
せつなさやふり まわるたひ
・季語は「カヌー」(三夏・生活)。口語いろは歌。

039
カップヌードル叉焼に
海老葱玉子細い麺
お店を開けよ夏の森
晴れて座ろう草叢へ

かっふぬーとる ちゃーしゅーに
えひねきたまこ ほそいめん
おみせをあけよ なつのもり
はれてすわろう くさむらへ
・カップヌードル。口語いろは歌。

040


美女 華やぐ Body 白猫 添乳 Mother 手づくり Fair へぜひ 誰もが Peace 望み 夢告げる Pen 呼べば New Power Support Gap 後 武器を消せ Home 命どぅ宝 WAR IS OVER
・幾何学的形象詩 長方形。口語いろは歌。直音+拗音+撥音+促音+外来語の表記に用いる仮名と符号。

041
ペディキュアを塗る胸は白
サマーセーター紺の襟
海も呼ぶ姫 惚れ直す
そっとくちづけ やわらかに

へてぃきゅあをぬる むねはしろ
さまーせーたー こんのえり
うみもよふひめ ほれなおす
そっとくちつけ やわらかに
・ペディキュアを塗る。口語いろは歌。

042
クヌギ木立へカブトムシ
もはや集まる 根に潜み
ほら追ってゆけ 餌用の
メロンゼリーを忘れない

くぬきこたちへ かふとむし
もはやあつまる ねにひそみ
ほらおってゆけ えさようの
めろんせりーを わすれない
・クヌギ。口語いろは歌。

043


Virtuoso の Do Re Mi Fa 早技 Cello 間近に夢 Quarter Début Paper Moon へも Step を呼ぶばね なぜ慕情 Poppy 謝儀だけが尽きず 髭面汗拭い 細さ 小声 Liebe
・幾何学的形象詩 長方形。口語いろは歌。直音+拗音+撥音+促音+外来語の表記に用いる仮名と符号。

044


優しい嘘 頬を濡らす 背中甘え もちろん横へ 胸はときめくのに 秘密わけて 揺れるふたり
・幾何学的形象詩 長方形×2。

045
白いレースもふんわりと
キヌガサタケの開く土
ゆうべポエムに謎追って
横をヤマセミ 雨撥ねる

しろいれーすも ふんわりと
きぬかさたけの ひらくつち
ゆうへほえむに なそおって
よこをやませみ あめはねる
・キヌガサタケ。口語いろは歌。

046
街吹きぬける風の色
艶めく頬に映えなじみ
そっとゆだねて吾亦紅
リースを編む日 사랑해요

まちふきぬける かせのいろ
つやめくほおに はえなしみ
そっとゆたねて われもこう
りーすをあむひ さらんへよ
・季語は「風の色」(三秋・天象)。口語いろは歌。

047
珈琲沸かす店に立つ
女優しく細い腕
チェロの音 森をゆらめけば
虚無へアップル・マドレーヌ

こーひーわかす みせにたつ
おんなやさしく ほそいうて
ちぇろのねもりを ゆらめけは
きょむへあっふる まとれーぬ
・マドレーヌ。口語いろは歌。

048
小犬のようにじゃれあって
ロマンざわめき細道へ
笑顔を向けゆだねる日
ラブストーリーは切なくも

こいぬのように しゃれあって
ろまんさわめき ほそみちへ
えかおをむけ ゆたねるひ
らふすとーりーは せつなくも
・小犬のように。口語いろは歌。

049
ケルンメッセのアヌーガへ
チーズ 葡萄酒 生ハムも
照り焼き ポワレ 御菜添え
つねにたくらみ よろこびを

けるんめっせの あぬーかへ
ちーす ふとうしゅ なまはむも
てりやき ほわれ おさいそえ
つねにたくらみ よろこひを
・アヌーガ。口語いろは歌。

050
夜更けコートの襟直す
部屋を開くも荒れた床
ポワロ説明 胸張って
真相見抜き街に去る

よふけこーとの えりなおす
へやをひらくも あれたゆか
ほわろせつめい むねはって
しんそうみぬき まちにさる
・ポワロ。口語いろは歌。

051
おばけカボチャの笑い声
ダークブルーを彷徨って
虚ろな視線 衣擦れも
夢見に遊び 眠りへと

おはけかほちゃの わらいこえ
たーくふるーを さまよって
うつろなしせん きぬすれも
ゆめみにあそひ ねむりへと
・おばけカボチャ。口語いろは歌。

052
空を見上げよスヌーピー
フレッシュなパン 屋根の上
黄色に騒ぐ小鳥たち
目も瞑るまで頬へ風

そらをみあけよ すぬーひー
ふれっしゅなはん やねのうえ
きいろにさわく ことりたち
めもつむるまて ほおへかせ
・スヌーピー。口語いろは歌。

053
尻尾の長いハヌマーン
萌えてゆく頃 胸に秘め
矢をよせつけず空へ飛ぶ
青ちぎれ去り渡る海

しっほのなかい はぬまーん
もえてゆくころ むねにひめ
やをよせつけす そらへとふ
あおちきれさり わたるうみ
・ハヌマーン。口語いろは歌。

054
頬白の声 春を告げ
眠そうな目も鶺鴒に
やすらかさ詠み待ちわびて
アフタヌーンへゆっくりと

ほおしろのこえ はるをつけ
ねむそうなめも せきれいに
やすらかさよみ まちわひて
あふたぬーんへ ゆっくりと
・アフタヌーン。春の里。口語いろは歌。

055
聞こえる音色 街の店
ひざしやわらか花に手を
むすめ装う ほつれ毛も
アフタヌーンへゆっくりと

きこえるねいろ まちのみせ
ひさしやわらか はなにてを
むすめよそおう ほつれけも
あふたぬーんへ ゆっくりと
・アフタヌーン。春の町。口語いろは歌。

056
チビ猫くしゃみ寒い空
ほろりレーズン集め終え
棚へのせようワッフルを
マヌカハニーも雪解けて

ちひねこくしゃみ さむいそら
ほろりれーすん あつめおえ
たなへのせよう わっふるを
まぬかはにーも ゆきとけて
・マヌカハニー。口語いろは歌。

057
粉雪へ風 オホーツク
空を見あげて鳥の群れ
優しい薄日 枝に芽も
チロンヌップよ跳ねまわる

こなゆきへかせ おほーつく
そらをみあけて とりのむれ
やさしいうすひ えたにめも
ちろんぬっふよ はねまわる
・チロンヌップ。口語いろは歌。

058
動物園のマヌルネコ
毛皮もっさりポーズ見せ
行くよ泣き虫たちを目に
青空晴れて広い部屋

とうふつえんの まぬるねこ
けかわもっさり ほーすみせ
ゆくよ なきむしたちをめに
あおそらはれて ひろいへや
・マヌルネコ。口語いろは歌。

059


恋 ふれた指が 曇 雨露の音 屋根へ向き更に 見あげるよ星を
カットソーに背を 夢の絵で散歩 ふわり街へぬけ 琥珀 夏休み
・幾何学的形象詩 碁盤歌。口語いろは歌。

060
ヘーゼルナッツ チョコレート
ヌテラの甘味 パンふわり
眠そうに目を白い指
えくぼ穏やか 今朝もキス

へーせるなっつ ちょこれーと
ぬてらのあまみ はんふわり
ねむそうにめをしろいゆひ
えくほおたやか けさもきす
・ヌテラ。口語いろは歌。

061
海の青さへ白い胸
ぬれた背を干す人魚姫
眉やわらげて声は散る
ガーリーな服そっと持つ

うみのあおさへ しろいむね
ぬれたせをほす にんきょひめ
まゆやわらけて こえはちる
かーりーなふく そっともつ
・人魚姫。口語いろは歌。

062
譜面ゆっくりテヌートの
街に寄る頃 薄れ日が
きみを思えば灼けた胸
淡いせつなさ星空へ

ふめんゆっくり てぬーとの
まちによるころ うすれひか
きみをおもえは やけたむね
あわいせつなさ ほしそらへ
・テヌート。口語いろは歌。

063
ヴェリーヌとろけスプーンに
カナッペも寄せ きみの頬
小悪魔たちは灯を揺らし
艶めいて胸 誘われる

うぇりーぬとろけ すふーんに
かなっへもよせ きみのほお
こあくまたちは ひをゆらし
つやめいてむね さそわれる
・ヴェリーヌ。口語いろは歌。

064
アール・ヌーヴォー 窓へ猫
色を散りばめ透けた壷
食器に潜むミモザの絵
やわらかな線ふれてゆく

あーるぬーうぉー まとへねこ
いろをちりはめ すけたつほ
しょっきにひそむ みもさのえ
やわらかなせん ふれてゆく
・アール・ヌーヴォー。口語いろは歌。

065
オーナメントも鮮やかに
木立そびえて色づけば
ミューズの星へ上向くを
招きよせられ塗るリップ

おーなめんとも あさやかに
こたちそひえて いろつけは
みゅーすのほしへ うわむくを
まねきよせられ ぬるりっふ
・オーナメント。口語いろは歌。

066
スノードロップ惜しみなく
眠りへ歌を細い声
街やわらげば銀も召せ
夜露にぬれて光る朝

すのーとろっふ おしみなく
ねむりへうたを ほそいこえ
まちやわらけは きんもめせ
よつゆにぬれて ひかるあさ
・スノードロップ。口語いろは歌。

067
ラッシュガードは水に濡れ
陽気へコロン灼け熱り
さわぐビーチを二重の眼
せつない胸も染まる青

らっしゅかーとは みすにぬれ
ようきへころん やけほてり
さわくひーちを ふたえのめ
せつないむねも そまるあお
・ラッシュガード。口語いろは歌。

 
論考
「いろは歌」試論 2014.05.06
 

 
「いろは歌」のすゝめ(高校生の皆さんへ)

 現代社会において、あえて古文漢文を学ぶ必然性があるのだとすれば、それは大学受験のためであろう。古語・漢語や語法・句法・文法など、暗記までさせられるのに、現実の社会では全く使われることがない。かくも現代社会とは不条理なものであるが、高校で進学校に入学してしまった生徒には、大学くらい卒業していなければ就職がない。これは切実な問題である。
 特に、センター試験を受ける高校生にとって、古文漢文は避けられないものだ。できれば得点源にしたいところである。そのためには、古典文法を覚えてしまうことが早道だ。古典文法を修得する、もっとも効果的な方法は、その文法で作文してみることである。友達と「古文漢文メール」でやり取りをするという遊びは、よく知られているものだと思う。
「いろは歌」は基本的に文語・歴史的仮名遣いで詠まれるので、この創作を試みれば、高校生の皆さんも、必然的に古文に慣れ、古典文法を修得できるようになる。創作の最中には、国語辞典や古語辞典・漢和辞典を何度もひくことになるので、語彙力もグンと増す。語彙力が増えれば、読解力もアップできるから、現代文でも、良い点数が取れるようになるだろう。
 高校生の皆さん、「いろは歌」を詠んでみませんか?

羊坂珠音

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