スズムシ

Suzumushi

Suzumushi

 スズムシを飼育している。
 雄が8匹、雌が18匹いる。8月と9月の境目に、皆、成虫になった。それまでは、幼虫のみ、別のプラスチック・ケースの中で育てていた。10数匹はいたと思う。すべて雌であった。彼女らも無事成虫となり、現在は大型のネットゲージの中で、すべてを育てている。
 夕方になると鳴き始めるが、朝方の合奏もまた見事である。私は、早朝に起きて勉強をする習慣があるが、彼らの存在を好ましく感じている。高い周波数が頭脳には良い、と勝手に思っている。夜には、彼らの音楽を楽しみながら、就寝する。
 彼らは、元来、人の手により育てられたスズムシである。亡くなった伯母の家を、今年の初盆に訪ねたおり、さて帰ろうというところで、スズムシの声が聴こえる。
「ああ、スズムシが鳴いているね」
 と言うと、母屋の玄関を出た先の、車入れの奥の方に、スズムシを飼育しているのが見えてきた。今年の6月に亡くなった、私の伯母が飼育していたものを、その長女である私の従姉が受け継いだものだという。まだ、伯母の生きているうちにスズムシの孵化したことを、ホスピスにいる伯母に伝えられて、よかった、という話を聞いた。
 持って行くかね、というのを、老母が2、3匹のつもりで所望すると、プラスチック・ケースのまま、およそ30匹はくれた。増えすぎて困る、今朝も墓地に逃してきたばかりだ、と従姉は笑う。法事のこともあり、墓地の掃除でもしたのであろう。
 老母は、スズムシを私に任せる気でいる。昨秋、私が贈呈したカンタンを、老母は豪く気に入った様子で、あのように飼ってくれ、という感じだ。昨年のカンタンは雄の一匹のみで、仔を残さずに、11月頃、死んでしまった。
 私は、伯母の形見を貰った気分で、随分、緊張した。ただの形見ではない。生きている形見であり、生命をつなぐ形見でもある。伯母の御霊(みたま)の一部をいただいたようで、どうにも畏れ多い。自然と慎重になる。成虫も幼虫も混じった、そのスズムシたちに、最適な環境を提供するには、時間を要した。
 帰宅するやいなや、昨年、カンタンを飼育した手持ちのプラスチック・ケースに、身体の小さい幼虫を分けた。ピンセットを使い、虫の死骸を拾いあげる。翅と後脚を残し、腹部が空洞になっている。やはり共食いをしている。
 翌々日、時間を作って、ホームセンターに行った。蛋白質のエサ、給餌皿、床に敷くミズゴケ、産卵用の赤玉土。大型のネットゲージは、取り寄せることになった。結局、一週間後に、ネットゲージが入荷するまで、プラスチック・ケースで飼育を続けた。
 現在は、広口瓶に湿った赤玉土を入れ、ネットゲージの片隅に置いてある。冬になれば広口瓶に蓋をして保管し、ネットゲージは畳んでしまうつもりだ。
 一年草を育てるのと同じ要領である。