コハクチョウ 其之八

Bewick's Swan

Bewick’s Swan

 今季のコハクチョウは12月の初旬に鶴ヶ池へ飛来した。

 私は12月に上京する予定があったので、すぐに観察へ行くことは控えた。老母を恵比寿へ連れて行くためである。恵比寿は老母が私を産み育てた街だ。広尾病院で産まれた私は、4歳2ヶ月までを恵比寿で過ごした。幼い頃に遊んだ公園と、アパートとを行き来した小路がまだ残っているので、そこを老母に歩かせたかったのである。
 認知症で要介護度3の老父をショートステイに預け、老母の青春の地とも言える場所を歩いた。恵比寿では大規模な再開発がなされたが、老父と老母が新婚生活を過ごした周辺は、道路などに大きな変更もなく、するすると老母は歩きまわり、私にいろいろと教えてくれるのであった。私も上京した際、老母に土産話ができるよう、恵比寿に寄るようにはしていたのだが、公園と小路くらいしか確かな記憶はなかった。
 老母は、この旅行を楽しみにしていた。老父をショートステイに預け始めたのも、この旅行を実現させるための準備である。ケアマネージャーさんも東京暮らしを経験された方で、旅行の実現を助けていただいた。旅行の日まで、体調を崩さないようにと、寒いときの外出を控える老母を見て、私も野鳥観察を控えたのである。そんなことで風邪をひくような身体ではないのだが、老母の気持に寄り添うことにしたのだ。
 老父もショートステイに慣れたようで、平穏に時は過ぎて、旅行も無事に終えることができた。年始には親族と会うことが多くなるが、老母は嬉嬉として東京に旅行した話をするのであった。親族には、東京暮らしを知る者もいれば、知らない者もいる。だが、日常、老母が老父の介護をしていることを知らないものはいないので、皆、老母の旅行を喜んでくれた。

 コハクチョウは大晦日には姿を消していた。今季は鳥インフルエンザのリスクもあったので、その朝、私は鶴ヶ池の周囲を二度まわった。さいわい死骸を見ることもなく、他の越冬地に移動したのではないかという結論に達した。
 
追記 写真は 2016.12 の観察の際に撮影したものです。

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