オオハクチョウ

Whooper swan

 今季もオオハクチョウが飛来した。

 昨季は短期間であったが、今季は長期間にわたり滞在してくれた。11 月下旬に鶴ヶ池へ飛来した際、テレビや新聞で報道されたこともあり、その週末には多くの方がいらしてくれた。その後、コハクチョウも飛来し、オオハクチョウとコハクチョウを比較して観察することも可能になった。

 両種ともペアでの飛来で、鶴ヶ池では四羽の白鳥を観ることができた。塒は鶴ヶ池と桶ヶ谷沼のいずれかにある。このふたつの池沼は尾根を隔てた近隣にあり、水系も同じものと思われる。マコモとヨシの群落があり、西からの強風を防ぐような、窪んだ地形になっている。
 遠州では冬季に強風が吹くため、体感として寒く感じられることもあるが、日向に居さえすれば、日照量も豊かで暖かい。シイやアラカシなどの照葉樹が繁り、濃緑の森林を背景に白鳥の飛翔する様子は、この土地ならではのものではないかと思料する。

 オオハクチョウの飛び立つ瞬間を何回か観察した。
 長い首を羽毛の中に納めて眠る状態から、目覚めた後、羽繕いや採餌をして、早い時間に飛翔する。二羽が、首を小刻みに上下しながら鳴きあい、時を同じくして水面を滑走し、飛び上がる。翼面積が広く、羽撃く力も強い。空中で旋回して、飛行する形を整える。
 二羽ともに長い首が錆色を帯びているように感じた。文献調査によると鉄分の多い湖沼での影響を受けるらしい。営巣地などの環境を知りたいところである。

 越冬地として、この地を選んでいただけたことは光栄なことで、今後とも飛来していただけるよう、自然環境を保全することの意義を強く感じている。地形の現状を保ち、植生を豊かにすることは目に見えてわかりやすいが、豊富な湧水量を保持することや、水質や底質を良好に保つことなどには、専門的な知識や技術、そして設備や機器が必要なように思う。
 地域的にも、広範囲を網羅することが好ましいので、自然環境をともにする地域の学術的な機関や市民科学を担う諸団体などでの連携した調査や研究が望ましい。個人でできることをするつもりではいるが、自然環境の保全については、やはり社会的な取り組みが不可欠ではなかろうか。

 失われゆくものには哀惜の念を抱く。残された自然環境の持続することを願う。