コハクチョウ 其之七

Bewick's Swan

Bewick’s Swan

正月。白鳥の姿は既になかった。

 年末年始は老母がひどい風邪をひいてしまい、私たち家族は伯父宅に新年の挨拶へゆくことができなかった。電話をしてみると伯父も体調を崩していたようで、従姉への負担も気にかかった。
 近年、老父は認知症で、伯父たち家族との会話も成立しないことが多く、早く帰りたがるばかりで、申し訳ないと感じていたところである。正月はデイサービスも休みで、拙宅に居る老父の世話は私たち家族が見なければならない。幸い、暖かい正月で、老父は体調を崩すこともなく、私たちが糞粒に悩まされることもなかった。老人との同居生活でつらいことは糞尿の匂いである。
 老父は要介護度2で、週二回のデイサービスと月一回のショートステイを利用させていただいている。年末には福祉用品の購入に介護保険を利用させていただいた。いずれも老父を直接に介護している老母の負担を軽減し、老母の希望を尊重したもので、私は法律的な手続などで老母を支えている。認知症ケア専門士の資格をお持ちのケアマネージャーさんに就いていただいたこともあり、なんとか自宅介護の責務を果たしている。
 認知症の高齢者は精神疾患の患者である。その介護をするためには心理療法の技能を身につけなければならない。本人への心理療法は当然のこと、その介護者である家族へのカウンセリングも必要になる。老父の認知症がひどくなって以来、老母は老父に対して癇癪を起こすことが多くなった。居間から老母の金切り声が聞こえると、勉強部屋にいる私は暗澹たる気分になる。
 獣のように呻き続ける老父の奇声は、いくら家族とはいえ気味の悪いものだ。やめてほしいと頼めば、余計に長く、大きくなる。老人の心理は厄介なものだが、それに精神疾患が加わっているのだから、手に負えない。認知症の高齢者を自宅で介護するためには、まず家族が精神医学や心理学を理解していなければならない。素人に介護を強いれば不幸な結末になるような予感がする。
 私は専門的に高齢者の精神医学を学んだ者ではないが、それでもありあわせの知識で老親を支えてゆかざるを得ない。老母は健常者なので、まだ会話が成立するが、精神医学などを理解することは難しい。衰えてはいないが病気がちのところがあり、なるべく老母がストレスをためないようにと私は苦心している。デイサービスやショートステイを利用できるようになってからは、買物に時間的な余裕も持てるようになり、昼食に外食を楽しむこともできるようになった。たった一杯の蕎麦すら満足に味わえなかった状況からの解放は、老母の精神的な負担をいくらか和らげていると思う。

 今季は冬鳥が少ない。それでも拙宅には尉鶲なども訪れ、老母の目を楽しませてくれている。私だけの力ではどうにもならない。野鳥たちの愛らしい姿で、老母の気分も癒されてくれればと願う。

追記 写真は 2015.12 の観察の際に撮影したものです。
    2016.02 中旬。拙宅の庭にてヤマガラを確認しました。
    2016.02 下旬。拙宅の庭にてコゲラを確認しました。

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