コハクチョウ 其之五

Bewick's Swan

Bewick’s Swan

 月曜日。日の出前の、まだ暗い空の下、私は鶴ヶ池まで自動車を走らせた。コハクチョウ(小白鳥)の飛来を期待してのことである。鶴ヶ池には綺麗に舗装された駐車場がある。しかし、私の他には誰も来ていない。やがて朝日がのぼりはじめ、マガモ(真鴨)やコガモ(小鴨)の声を聴き、その姿を観ることができたが、コハクチョウの姿を確認することはできなかった。

 金曜日。明るい空の下、私は静岡銀行まで自動車を走らせた。月末のせいか、 Automated Teller Machine (現金自動預け払い機) の前には長い列が出来ている。それでも皆、慣れているせいか、列は確実に短くなってゆく。この機械は、顧客が現金を引き出すとき、必ず警戒音を鳴らす。どんなに早く引き抜いても、必ず警戒音を鳴らす。
 フクシマ以降、ハマオカは、静岡県の経済にネガティヴな影響を及ぼしているのではないか、と私は考えている。経済的な取引は、相手がいて成立するものだ。たとえ自分の正当性を主張したところで、相手の持つ自分に対するネガティヴなイメージを払拭できないのであれば、その取引は諦めざるを得ない。それは心理的な事象として相手の内部に生ずるものであり、自分には干渉することの出来ないものである。
 現在の私の危惧の証拠として、すでに公開されている記事を紹介しておこう。少し前に牧之原市の市長選挙があったが、そのときの候補者の発言に気になるものがあった。彼は「中部電力浜岡原発について」という記者からの質問に対して、こう述べている。

「浜岡原発の影響を受け、企業は市外に移転し、産業の空洞化が進んでいる。地価の下落による銀行担保不足、住宅建築減少、企業誘致に障害が出ている」(名波力氏。静岡新聞 2013年10月23日、朝刊 )

 地価の下落には南海トラフ巨大地震によるリスクの要因もあろうが、不動産の担保としての価値が下がれば、銀行から借り入れられる資金は少なくなり、事業者の資金繰りは苦しくなる。旧浜岡町の周辺地域で、新規の住宅着工件数が下がり、事業者による設備投資も低調になれば、この地域の経済は冷え込むことになるだろう。まさにリアルな証言である。
 御前崎市に隣接する牧之原市、菊川市、掛川市に、世界農業遺産「静岡の茶草場農法」が存在することは御存知であろうか。これは象徴的な例であるが、静岡県の茶業、農業、漁業、水産業において、ハマオカの事故が致命的なものになるであろうことは言を俟たない。これら第一次産業から派生する加工業、販売業や、飲食業、観光業などの事業者も、ハマオカを事業のリスクとして認識しないではいられないであろう。医療や福祉の事業者も、原子力発電所の近辺には施設の建設を躊躇うのではないか。
 静岡空港ができ、新東名高速道路ができた。時代は移る。社会も変わる。経済政策も転換する。これら一連の動きの中で、ただハマオカだけが、1967年頃の政治経済の亡霊を引き摺っているかのようだ。

 土曜日。私は鶴ヶ池を再訪した。駐車場には、多くの写真家の皆さんの自動車がある。彼らは親切で穏やかだ。私もコハクチョウの姿を観ることができた。こころに安らぎを与えてくれるものは有難いと感じた。

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