古典について

Chuo Kouen

 私が、ツイッターで短歌や俳句を始めた理由のひとつに、高校時代に学習した古典について、あらためて学習したい、ということがあった。
 大学受験のために、やむを得ず勉強せざるを得なかった「国語」だが、現代文はともかく、古文や漢文の学習が、現代社会で生きるために、なんの必要があるのか、という疑問を、以前から抱いていた。地方に在住する下層階級の子弟を入学試験で選抜するために、要らない負荷を課しているのではないか、とさえ思っていた。和漢の教養の世界は、都市圏に在住する富裕層の子弟たちの、経済的、文化的な優位の発現する場所であるように感じていたし、その疑念は、現在でも解消されてはいない。なぜ、古文や漢文が大学受験の必修科目でなければならないのか、ということである。
 それでも、その場をのりきるために、古典文法などは必死に暗記してきた。現在では、その後遺症に苦しんでいる。古典に類したものを目にすると、暗記した知識が反射的に甦り、頭の中を巡り始めるのである。その曖昧な記憶は、私を悩ませる。参考書や辞典で、古典に関する事項を再学習し、納得するまで苦しみは消えない。以前は、古典から遠ざかり、逃げることによって、忘れることもできるように考えていたのだが、現在では、古典を再学習して乗り越えることを考えている。
 古代中国の漢詩。日本の和歌、連歌、俳諧、そして俳句。先人の積み重ねてきた業績のうえに、更に新しいものを積み重ねてゆく、ということが、基本的な学問の考え方としてある。文学を学ぶ者は、ある時期、古典を学ばざるを得ないのではないか。新古今和歌集の「本家取り」の技法などは、和歌の世界における究極の技法であると思うが、それは藤原定家の古典研究の成果であった。藤原定家の父、藤原俊成は「古来風躰抄」で万葉集以来の秀歌を挙げている。中世には歌論が盛んである。いわゆる王朝文学の終焉の時期であるが、日本文学史を俯瞰すると、このあたりが気になってくる。
 松尾芭蕉にも古典を学んだ時期がある。しかし、芭蕉の時代と現代とでは、古典の範囲も異なる。元禄期には和漢の古典だけであったものが、近代以降は、西洋の古典までもが視野に入ってくる。坪内逍遥はイギリスから、二葉亭四迷はロシアから、その文学の資源を得ている。近代以降の日本文学を解読するためには、英米文学やフランス文学、ロシア文学などについての理解も不可欠であろう。特に、短歌や俳句など、文字数の限られた文学形式では「引喩法」は有効な技法となる。現代の短歌や俳句には、西洋の古典をも取り入れている幅広さがある。
 現代における「季語」は、基本的には「和漢の古典」の簡易な引喩法として準備されたものかも知れない。季語の由来は、あくまでも文学が自然詠のために応じた言語にあり、その対象である自然物とは、本質的には反対の極に位置している。言語と、その対象である自然物との関係は、あくまで恣意的なものに過ぎず、季語の規則というのは、偉大な先人たちとはいえ、たかだか人間が決めた規則にすぎない。
 近代以降、俳句の世界の季語は、東京を基準として政治的に決定されてきたように思う。これは東京に在住する俳人にとって優位に作用する。季節ごとの自然観察を、そのまま客観写生して「季が違う」などと言われることもない。首都圏は人口が多く、富裕層も多いから、東京を基準として季語を決定する方が、経済的な利益も最大化できるであろう。私は、そのような中央集権主義を、近代における事実として見つめるだけである。しかし、近代の東京によって決定された季語を遵守することは、地方在住の者には、根源的に困難なことではなかろうか。
 地方在住者が俳句を詠むためには、自然観察者でありながら、古典学習者でもあるべきではないか。現行の、東京中心の季語を無批判に受容しているだけでは、自分たちの地方での客観写生との間に齟齬をきたす。古代中国や、奈良、平安時代の日本において成立した言語や文字、文学について、現代の視点から学びなおすことで、その地方の気候や、生態系、民俗などを、より精確に表現する可能性が生まれるのではないか。文学に於いて美を実現するためには、その対象物の観察だけではなく、言語や文字に対する再検討もまた不可欠な要素であろうと考えている。
 その実践は、論ずるように容易なことではないだろう。しかし、試みる価値はあるように思う。なによりも眼前にある遠州の自然を詠むために、私は自分の発すべき言葉について考えざるを得ないのである。

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中