アオドウガネ

Aodougane

 それは八月の初旬、裏庭の草取りをしていたときのことだ。戸外の水道の、桶に溜まった水の中に、一匹のコガネムシが落ちた。アオドウガネである。
 仰向けになって水上でもがいている。その虫を、私は当然のように拾い上げた。鞘翅目を嫌いな男子は少ない。カブトムシ、クワガタムシが有名であるが、カナブン、カミキリムシ、タマムシなど、機能的な造形と、メタリックな色彩、硬質な手触りは、まるで生きた宝石のようでもある。
 アオドウガネの腹は銅版のように光沢を放っている。そのまま上着に付けると、水に溺れて元気のないせいか、じっとしがみついている。草取りを終えて、そのまま室内に入るが、微動だにしない。
 その緑色の丸い姿が愛らしく思えたので、私は昆虫用のゼリーを与えてみた。スズムシに与えるもので、中には糖質が含まれている。野生のものが、人間の与えた餌を食べるものとは限らないが、この虫は腹が減っていたのだろう。遠慮なしに食べ始めた。
 図鑑を見ると、アオドウガネの幼虫はジャガイモの根を荒らす害虫、と書かれている。近隣の農作地から飛んできたものであろうか。要するに人の近辺にいる昆虫ということだ。
 私はスズムシを飼育している。伯母の形見として譲り受けたもので、自分の趣味で選択したものではない。昨年に譲り受けた30匹が、今年は20倍以上にまで増えた。販売用の大型ケージで飼育しているが、毎朝の掃除などは一仕事である。産卵をさせる気遣いなどもあり、ダニやカビなどには神経質なまでに対応をしている。自分が多くの生命を預かる立場となって、あらためて公衆衛生学と予防医学の社会的重要性を認識した。
 スズムシの飼育には、多大の尽力を必要とした。その点、アオドウガネは楽であった。放し飼いで、ゼリーを与えるだけである。宵闇や早朝に私が蛍光灯を点ければ、机の上まで飛んでくる。新しいゼリーを開けてやれば、無心にそれを嘗めている。まったく屈託がない。その、のんびりとした様子には、正直なところ、随分、励まされた。
 昆虫の多くは、一年しか生がない。
 私の部屋の窓には網戸が嵌めてあり、冷暖房を止めて空気の入れ換えをするときも、鳥や虫の侵入することのない構造になっている。外敵がなく、食べるものがあり、室温が適当であれば、この虫にとって天寿を全うすることにもなろう。

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